「名言との対話」 2月19日。埴谷雄高「(ライフワークは)完成しなくていい」

埴谷 雄高(はにや ゆたか、1909年(明治42年)12月19日 - 1997年(平成9年)2月19日)は、日本の政治・思想評論家、小説家。本名般若 豊(はんにゃ ゆたか)。

日大予科中退。1931年に共産党に入党し、翌年検挙される。1945年「近代文学」創刊に参加し、人類や宇宙の全存在を問う長編小説「死霊」の連載をはじめる。ほぼ全編を、物語でなく観念的議論によって進行する世界文学史においても未曾有の形而上学的思弁小説であり、この一作で比類ない評価を受けた。1986年「死霊 全5章」で日本文学大賞を受賞。1995年「死霊」第9章を発表。50年の歳月をかけた大作であり、全12章を予定していたが4分の3の段階でついに未完におわっている。

映像の記録「ETV特集 埴谷雄高 独白『死霊』の世界」をもとにつくった「あの人に会いたい」で本人の映像と言葉をみた。「人類そのものを変えようとして書いているわけですよ」、そして根源と究極を問う。存在とは何か、自分の意味を問うことは宇宙を問うことだ。、、、。

話をするときに手に持っているもので机やテーブルを叩く癖があり、メガネを200個以上も壊したというエピソードもうなづける気迫の人という印象を受けた。1998年、『埴谷雄高全集』刊行開始し、2001年に完結。

死後、亡くなった2月19日を「アンドロメダ忌」と有志が命名した。埴谷が宇宙に強い関心を持ち、寝る前にオペラグラスでアンドロメダ星雲を眺め、思いを巡らせていたことにちなみ、本人がその名前を希望したとされる。

思想面でもスターリン批判など多様な論争を展開し、戦後世代に大きな影響を与えた。安部公房、高橋和巳、辻邦生、倉橋由美子、北杜夫、加賀乙彦、立花隆、 などの新人作家の才能を発見して育成している。「組織のなかでは、しばしば、罪があって排斥されるのではなく、排斥する気があってから罪がつくられるのだ」は、現実の社会に関与した人の鋭い目を感じる。

「あの人に会いたい」という番組では、「死霊」というライフワークについては、完成しなくていいと語っていて驚いた。300年後に誰かが気づいてリレーしてもらえばいいという考え方だった。それを精神のリレーと呼んでいる。そういう考え方もあるのか。ライフを人生ではなく、長い時間を意識した生命という意味にとらえた人の言葉だ。ライフワークという言葉の意味するものを広げてもらった。

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