「名言との対話」3月7日。藤原 審爾「寝るヒマがあるくらいなら、勉強しなよ」

藤原審爾(ふじわら しんじ、1921年3月7日 - 1984年12月20日)は、日本の小説家。

幼くして父を失い、父の郷里備前市で祖母に育てられる。青山学院中退、東京で同人誌に習作を書くが戦争末期岡山に帰住する。

上京し戦後間もなく奥津温泉を舞台にしたとされる「秋津温泉」などの恋愛小説を発表して文壇に登場した。肺結核のため療養生活などをしながら、1952年「罪な女」他で直木賞を受賞した。その後、「死にたがる子」など社会的テーマにも取り組んでいく。

純文学から中間小説、エンターテイメントまで幅広いジャンルの作品で活躍し、「小説の名人」の異名を取った。「泥だらけの純情」「赤い殺意」など映画化された作品も多い。「藤原審爾作品集」(全7巻 森脇文庫)がある。女優の藤真利子は娘である。

1950年代からは編集者や作家、ライターを対象とした「藤原学校」と呼ばれる勉強会を毎月27日に自宅で開き、三好京三、山田洋次、江國滋、色川武大、高橋治らの後進を育てた。「なんとか一日でも長くがんばって、藤原さんの代役を、およばずながらこの世で果たしたいと思います。ぼくは藤原さんが手塩にかけて育ててくれた第一号ですからね」とは、色川武大(阿佐田哲也)の追悼の言だ。

「野に咲く花は自分の美しさを知らない。だから、一層美しい」

今まで縁がなく藤原の小説は読んだことはなかった。今回『狼よ、はなやかに翔べ』(角川文庫)を読んだ。純文学以外にも、現代風俗小説、サスペンス小説、警察小説、内幕小説、スパイ小説、仁侠小説、ユーモア小説、時代小説、など、藤原の作品は広く華麗だ。動物小説とでも呼ぶべき分野がこの本だ。それぞれ狼、黒豹、熊、山犬が主人公の4つの短編から成っている。私は「狼」を読んだ。主人公の狼・太郎の心理描写が素晴らしく、小説家としての腕の確かさがわかる感動的な内容だった。

晩年「宮本武蔵」の執筆をめざし、吉川英治武蔵のイメージを塗りかえるというライフワークに取り組んだが、1984年に急逝して実現を見ずに終わった。藤原は63歳で亡くなったが、「宮本武蔵」への挑戦が完成していたら、吉川英治の作品を越える可能性があっただろうと惜しまれる。

病気の問屋といわれるほど病気がちであり、その上、玄人はだしの麻雀をはじめ、野球、釣り、陶芸など趣味も広く、かつ徹底して研究していた。 「毎日寝るなんて贅沢だよ、寝るのは一日おきくらいでちょうどいい」と語っていたのはわかる気がする。人生のあらゆるものを学び続けた生涯だった。生前に準備され、死後に刊行された『遺す言葉』を読みたいものだ。

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