「名言との対話」2月27日。豊田章一郎「過去の成功の上にあぐらをかき、自己変革を怠った企業は、時代のうねりの中に沈んでいく運命にある」
愛知県生まれ。名古屋帝国大学工学部機械科卒。東北大学大学院修了。工学博士。豊田喜一郎の長男。1952年にトヨタ自動車工業に入社。1981年トヨタ自動車販売社長。翌年、工販合併に伴いトヨタ自動車初代社長。品質管理の責任者として品質向上と海外発展に努めるとともに、トヨタ自動車のデミング賞実施賞の受賞に尽力。1994年、経団連会長。2005年、愛知万博協会会長。
今日のトヨタの隆盛にいたるまでのトップのバトンタッチをながめてみよう。
豊田自動織機の創業者・豊田佐吉(1867年3月19日(慶応3年2月14日) - 1930年(昭和5年)10月30日)は、「狂と呼び、痴と笑うも、世間の勝手じゃ」 「人のやったことは、まだ人のやれることの百分の一に過ぎない」との考えで、「世界一の織機」の特許権をで得た金を豊田喜一郎に渡し、「お前は自動車をつくれ。自動車をつくって国のためにつくせ」と励ました。
豊田 喜一郎(1894年6月11日 - 1952年3月27日)は、トヨタ自動車を創業する。1967年社長に就任。その後、工・販統合まで14年9ヶ月社長をつとめる。
豊田 英二(1913年9月12日 - 2013年9月17日)は、豊田佐吉の甥である。創業期からトヨタの発展を支えた。量産体制を築く一方で、無駄を省くトヨタ式生産方式を確立した。日米自動車摩擦の解決策としてGMとのアメリカ合弁生産を決断するなど、グローバル展開の基礎を築き、トヨタを世界レベルの自動車メーカーに育てたトヨタ中興の祖となった。自動車事業に先鞭をつけた創業家の喜一郎の長男・章一郎に社長を譲る。
豊田章一郎は、財界総理ともいわれる経団連の会長になるなど、トヨタは名実ともに日本産業のトップに立った。
豊田 章男(とよだ あきお、1956年5月3日 - )は、リーマンショックに揺れる中、2009年の社長就任時には、「自動車業界が21世紀も必要とされるのか、今が瀬戸際」と危機感を表明し、業績を立て直している。2020年には静岡県裾野市のトヨタ自動車東日本東富士工場跡地に、未来の技術を試すための実証都市を建設するという壮大な構想を発表し、未来都市の創造に着手している。
私は2006年にトヨタ自動車で講演をする機会があった。もう一人の講師は、プロジェクトXでも紹介された国選定保存技術保持者・玉鋼製造の木原明(たたら職人)さんだった。いかにもたたきあげの職人という風貌の木原さんの話はトヨタの技術者の心を打った。この人の座右の銘は「誠実は美鋼を生む」だった。技術も大切であるが内面はそれに優る。従業員一人一人のものづくりにかける真心がより良い鋼をつくりだす。トヨタの技術者には、鉄を愛して、魂の入った車づくりをして欲しいと朴訥な語り口で述べた。このたたら製鉄の製法は、3日3晩の作業に耐える体力、感性、技能が必要であり、現代の技術者達に向かって「8時間労働でいい車がつくれますか」との問いを発し会場が沸いた。愛情、真心、誠実、こういった心が素晴らしいものを生み出すという固い信念にこころを打たれた。日本の魂の健在を示す話だった。車づくりの技術者たちは、この日本の誇る職人たちの後継者でもある。
2011年にトヨタテクノミュージアム産業技術館を訪問。トヨタグループ館。繊維機械館、自動車館を見学。豊田織機製作所を創業した豊田佐吉、その長男で自動車事業を始めた豊田喜一郎の業績をしのんだ。
2016年には、トヨタ自動車の合弁企業である広汽トヨタの最新工場を見学した。工場内には「活力、感恩、創新」、「創新工場」などのスローガンが各所に貼ってあった。最終工程では人間の手で検査をする姿が印象的であった。ランプ、ハンドル調整、サイドスリップ、走行テスト、ブレーキの効き具合、排ガス、エンジンルーム、足回り、水漏れ、など。
直近の株価の時価総額では、トヨタは日本のトップで22.8兆円。続いてソフトバンク15.2兆円、キーエンス、NTTドコモ12.5兆円、ソニー12.2兆円、ユニクロ9.1兆円、、、。製造業の雄である日立は3.8兆円、日鉄1.2兆円、三菱重工1.0兆円に過ぎない。世界はどうか・GAFAは日本のGDPを超えた。アップル一社で2兆ドルで、トヨタの10倍である。産業構造の革命が起こっている。
創業家が上手にバトンタッチを繰り返しながら、時代の風を利用しながら大きなもめごともなく、成長を続ける姿は圧巻だ。
佐吉「障子を開けてみよ。外は広いぞ」。英二「人間も企業も前を向いて歩けなくなったときが終わりだ」「今がピークと思ったら終わりだ」。喜一郎「フォードよりすぐれた方式を打ち立てねば、フォードに勝てません」。章一郎「過去の成功の上にあぐらをかき、自己変革を怠った企業は、時代のうねりの中に沈んでいく運命にある」。章男「自動車業界が21世紀も必要とされるのか、今が瀬戸際」。
2006年にトヨタで講演をしたとき、当時の副社長が私に語った「ライバルはこわくない。内部崩壊がこわい」という印象深い言葉を思い出した。トヨタの財産は「危機感」の伝統ではないか。
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