見出し画像

「名言との対話」1月13日。宇佐美英治「石を聴く」

宇佐見 英治(うさみ えいじ、1918年1月13日 - 2002年9月14日)は、日本の詩人、フランス文学者、美術評論家。

大阪出身。1941年東京帝国大学卒。『同時代』同人として矢内原伊作らと活動。『歴程』にも参加。明治大学教養部教授を務めた。1982年『雲と天人』で藤村記念歴程賞、1997年には宮沢賢治賞を受賞している。

加藤周一によれば、矢内原にアルベルト・ジャコメッティを紹介したのは宇佐見であったという。神奈川県立近代美術館の「裸婦小立像」は、1960年に宇佐美がジャコメッティと会ったときに持ち帰ったものだ。「「見る人」ジャコメッティと矢内原」(みすず書房)という書も書いている。

宇佐美の『石を聴く』(朝日新聞社)を読んだ。「淡交」という雑誌から石についての随想の連載を頼まれて、2年間、宇佐美は石とともに生き、石にとりかこまれて暮らしたのである。この本には、宮沢賢治、草野心平、矢内原伊作、松尾芭蕉、谷崎潤一郎、セザンヌ、雪舟、吉阪隆正、モーツアルト、谷崎潤一郎、、、などの石に関するエピソードが登場する。また著者の教養の深さを感じる記述が多い。五輪の塔についての蘊蓄、「騒人の閑語」「「上木」「跋」を始めとした言葉の数々、、。
宇佐美を調べている過程で、 『石を聴く――イサム・ノグチの芸術と生涯』(ヘイデン・ヘレーラ、 北代 美和子訳)という本があることがわかった。2018年刊である。「BOOK」データベースには「時に挑み、時に触れる―アメリカ人の母と日本人の父のあいだに生まれ、第2次世界大戦をはさんで東西を往来しつづけた20世紀の世界的彫刻家。周囲の人々の新たな証言とともに資料を駆使して波瀾万丈の生涯をたどりつつ、変幻自在な彫刻群のみならずランドスケープ、庭園、パブリックアート、舞台装置、家具・照明など多ジャンルにわたる作品の誕生を克明に明かしたノグチ伝の決定版」とある。この本は1978年の刊行だから、40年早い。「石を聴く」という耳慣れない言葉の意味はなんだろうか。
宮沢賢治は盛岡付近の岩で顔を出しているものは必ずハンマーで叩いた。空や雲の隠喩にさまざまな鉱物や鉱石の名を用いた。浄土式庭園を持つ毛越寺の廃墟の礎石から無名の死者たちの声が聞こえてくる。石の眼ざし。謡曲「殺生岩」は石の精を主題とした物語だ。石の内なる声が局の随所に響きわたる。芭蕉の「閑けさや岩にしみ入る蝉の声」の推敲の過程。
宇佐美は石垣が好きで、組まれた石のリズムや押韻が音楽のようにきこえてくると書いている。なるほど、「石に聴く」よりも、「石を聴く」のだ。石にしみ入った人間の声の数々、石の声を聴く旅の成果がこの本なのだとようやくわかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?