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2月20日。左卜全「常道の芸では 先がしれてる されば 逆 遠き苦難の みちを求めん」

左 卜全(ひだり ぼくぜん、1894年〈明治27年〉2月20日- 1971年〈昭和46年〉5月26日)は、日本の俳優、オペラ歌手。享年77。

帝劇歌劇部のコーラスボーイなどをへて、新宿のムーランルージュにはいる。「私の芸はぶっ倒れそうになりながら絞り出たものであり、自分自身、芸の世界に入ってからというもの毎日が死以上の苦しみであった」と後に回想していた。

戦後、映画界にデビューし、黒沢明監督の「七人の侍」「どん底」などに出演し、黒沢作品には欠かせない脇役となった。飄逸でとぼけた味のある役としてテレビや舞台でも活躍した。1970年にうたった「老人と子供のポルカ」は24万部の大ヒットとなった。

落合学(落合同人)のブログを読むと左卜全の虚像と実像がわかる。

芸名は江戸初期の伝説的彫刻職人・左甚五郎。室町末期の剣豪・塚原卜伝。丹下左膳の「膳」。それらを合わせたものであるというが、定かではないそうだ。

妻の三ヶ島糸の書いた『夫・左卜全 奇人でけっこう』(文化出版局)の題字は森繁久彌である。この本の中で左卜全は「花屋の花には人間の欲がついている、美人には人の見垢がついている」「宇宙のあらゆること、小は糞をたれることから、無限の神秘まで、森羅万象、、」などと語っている。笠智衆と並ぶ老け役を持ち場とした喜劇俳優は虚の姿であった。実の姿は、哲学者、思想家、宗教家であった。

自宅にあった門は墓所の三ヶ島墓苑に移設され、跡地には「左卜全を偲ぶ会」の手により「常道の芸では 先がしれてる されば 逆 遠き苦難の みちを求めん」と記された碑と解説板が立てられている。

左卜全という俳優の姿は、テレビでよくみた記憶がある。独特の存在感のある役者だったが、実像は世の中を厳しい眼で観察し、聞くに値する言葉を吐く、哲学者だったとは驚いた。渥美清という役者にも同じ匂いがする。人心をつかむ喜劇役者は、優れた目と耳と口を持っている。そうでなければ、人々の笑いをとることは難しいだろう。主演の2枚目の俳優よりも、喜劇役者、脇役に対する関心が深まった。

常道の芸ではなく、逆の苦難道を歩こうとした左卜全のことを知ったうえで、映画をもう一度、みてみたいものだ。

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