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「名言との対話」12月13日。ポール・サミュエルソン「もう経済学は止めた。これからは長寿学(gentology)を遣る」

ポール・アンソニー・サミュエルソン(Paul Anthony Samuelson、1915年5月15日 - 2009年12月13日)は、アメリカの経済学者。

インディアナ州でユダヤ人家庭に生まれる。1940年マサチューセッツ工科大学教授、1953年計量経済学会会長、1961年アメリカ経済学会会長、1970年ノーベル経済学賞を受賞。

サミュエルソンは古典派とケインズ経済学の統合を試みて「新古典派総合」という新たな潮流を生み出した。景気の循環とその波及効果をつかむための精密な理論を構築した。サミュエルソンは数学の手法を使ってケインズ理論の真髄を誰もがわかるように説明した。

経済学の教科書はスミス、リカード、ミルと連なる古典派の重鎮となったマーシャルの『経済学原理』、その教義の致命的な欠陥を指摘したケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』、その12年後に33歳でサミュエルソンの『経済学』が誕生する。『経済学』は、50年間で17回の改訂を行っており常に最新の生きた教科書であった。経済に関する最上の平易な解説であり、それは卓抜した学説理解能力による。アルバニア語からウルドゥ語まで27カ国語 に翻訳されている経済学の世界的な入門書のスタンダードだ。

「大事なことは何一つ省かず、正しくない単純化は避けて、基本原理を展開する」というサミュエルソンの野望は、難行といって過言でないと、『経済学をめぐる巨匠たち』(ダイヤモンド社)の中で、著者の小室直樹はいう。

この本では経済学を生んだ思想家のホッブスとロック、経済学の父・スミス、国際経済学のリカード、快楽の最大化を論じたベンサム、マクロ経済学の創始者・ケインズ、資本主義を批判したマルクス、資本主義発生のダイナムズムを解き明かしたシュンペーター、経済学を科学にしたワルラス、そして馬にも分かる経済学のサミュエルソンを順番に論じている。

小室は日本人経済学者として、高田保馬、森嶋通夫、大塚久雄、川島武宜を挙げている。ロンドン大学経済学部教授の森嶋の項ではノーベル経済学賞に最も近い日本人として説明している。ノーベル経済学賞受賞者が日本人から出ないのは、数学が入試から外されたこともあるが、超一流の秀才か、森嶋のような劣等生のみが世界トップになれる世界では、2流の秀才は歯が立たないという。サミュエルソンには独創性がないと論じていた森嶋については、「私の理論は若干の代数的誤りがあったが、それらは森嶋通夫によって修正された」とサミュエルソンが語っているほどの学者だった。私は20代でのロンドン駐在員時代に森嶋教授とは電話で話したことがある。

サミュエルソンの教科書も私も手にしたこともあるが、2000年前後に宣言したという冒頭に掲げた言葉に注目したい。サミュエルソン自身も高齢になって関心が変化したのだろうか。gentologyとgerontologyは、一般的には長寿学と老年学と訳されているようだが、どういう関係なのか。少し調べてみることにしよう。寺島実郎はジェロントロジーを高齢化社会工学と訳している。異次元の高齢社会に突入しつつある日本では、あらゆる分野がこれに包摂されていくだろう。自分に何が貢献できるかを考えたい。

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