見出し画像

「名言との対話」5月6日。松下圭一「歴史の変化のなかに現実の構造変化をみ、また現実の構造変化を推し進めて歴史の変化をつくりだす」

松下 圭一(まつした けいいち、1929年8月19日 - 2015年5月6日)は、日本政治学者。享年85。

福井市出身。第四高等学校を経て東大法学部卒。丸山眞男に師事。法政大学巨樹。日本政策学会理事長、日本公共政策学会会長などを歴任。

マルクス主義全盛の時代潮流において大衆社会論を引っさげて論壇に登場し、地方自治のイデオローグとして活躍した。「新しい時代は新しい言葉を必要とする」との考えから、松下の造語は「自治体改革」「政策法務」「情報公開」「市民参加」「シビル・ミニマム」「官僚内閣制」、、など多くかつキレがいい。そしてその多くは今では普通に使われている。

シビル・ミニマム(生活権)は私の大学生時代に話題になって、一時「都市問題研究会」(都市研)をつくろうとしたことを思い出した。もしつくって活動していたら、その後の私の歩みも変わっていたかもしれない。

日本政治学会会長、日本公共政策学会初代会長をつとめたこの学究による現代批判は聞くに値する。

・市民保護に不可欠の原発についての地域防災計画などの策定にも充分に対応できていない。基幹道路が一本しかない原発すらある。自治体は無責任、国は見識なし。

・2世、3世がふえて幼稚化しがちな政治家、官僚、経営者、同調する学者、記者といった「政官業学+マスコミ」には、市民良識で対抗させたい。

・未来に向けての予測・企画という、マクロの問題解決能力の欠如もいちじるしい。

絶筆となった85歳の自身の手になる『私の仕事』が、簡潔で明快に生涯の軌跡を記している。小学生時代の町内会費集め、旧制高校時代の市民文庫通い、大学での学生新聞編編集長、丸山眞男ゼミでの活動などから始まる生涯の歩みは亡くなるまで同じ道であった。

松下圭一の方法は「歴史の変化のなかに現実の構造変化をみ、また現実の構造変化を推し進めて歴史の変化をつくりだす」であり、市民起点の自治体改革から始まる市民型構造改革」が立ち位置である。

そのためには、価値合意を求めるための「構想力」の訓練が必要であるとする。思想-構想-現場-改革-思想という思考循環は、「現場」を熟知した理論形成であり、深い説得力と広い影響力があり、自治体職員など実務家にもファンが多かった。

その松下は、最晩年には日本沈没を予感し、市民社会構築への課題を提起して逝った。現今の社会を眺めると、その課題は的確であると改めて感じ、身が引き締まる思いがする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?