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「全国学力・学習状況調査」の弊害


 
私は新著『国語を楽しく』で次のように書いた。
 
文部科学省は2007年度から、「全国学力・学習状況調査」という名のペーパーテストを実施している。その趣旨は、学習状況の実態を明らかにして、学校教育の改善に役立てようということである。ところが現実には、テストの得点が、地域や学校をランク付けしている。得点の上下が、全国各地の自治体で取り上げられて問題視されるようになってきている。その結果、得点が低かった分野への対策が教育課題とされて、その分野の教育が重点的に行われるようになるという現象が起きている。「全国学力・学習状況調査」という名のペーパーテストの結果が、学校教育の内容を左右するようになってきているのである。
国語教育が育成すべきは、生活に役立つ言葉の力である。その力は、つまり、生活国語力である。生活国語力は、生活や学習の場で実際に聞いたり話したり読んだり書いたりする経験を通して伸びるものであって、その大部分は、ペーパーテストによって測定できないものである。なのに、ペーパーテストの成績によって学校教育の内容が左右されてしまうと、ペーパーテストで測定できる範囲外にある広範な生活国語力の育成がおろそかにされてしまうことになる。それが、「全国学力・学習状況調査」の副作用ともいうべき弊害である。
そのような弊害をなくすためには、調査そのものを廃止すればよい。廃止できない場合は、その得点を完全非公開にすればよい。
それができないならば、全数調査ではなく抽出式の標本調査にして、全国各地の学校教育が得点によってランク付けされにくいようにすべきである。
 
首藤久義著『国語を楽しく—プロジェクト・翻作・同時異学習のすすめ』(東洋館出版社、2023年1月)の「第2章 学習と評価」の「第1節 優劣や順位を明らかにするための評価」の「3 全国学力・学習状況調査の弊害」より。
 
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