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コロナどうですか?シリーズ(3)〜 岩佐美咲 3rd コンサート DVD ふたたび

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(7 min read)

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よみうり大手町ホールでの2017年7月22日、23日と2 days の計三回公演から収録された岩佐美咲のサード・ソロ・コンサート DVD『岩佐美咲 3rd コンサート〜笑顔・心・感謝で繋ぐ…至福の2日間〜』。発売された2017年当時に観た際の感想文はこれ↓

このときは三回もライヴをやったなかから、DVD の本編は三回目の23日夜公演で編成されていますが、ボーナスとして一回目(22日)と二回目(23日昼)からもダイジェストが収録されています。そっちにもなかなか魅力的な歌があるんですけれども、キリがありませんから、今日も本編だけを考えて書いていきたいと思います。

もちろんボーナス収録されている一回目公演(7/22)には「岬めぐり」だとか「恋のダイアル6700」、二回目公演には「暑中お見舞い申し上げます」「夏のお嬢さん」だとかいった、かなりそそられる曲もふくまれているんですけれども、ダイジェストですし(どの曲も抜粋収録)、涙を飲んでカットです。

このサード DVD『岩佐美咲 3rd.コンサート〜笑顔・心・感謝で繋ぐ…至福の2日間〜』本編にある曲で CD で歌われていないのは以下の12曲。かなりたくさんありますね。カッコ内は初演歌手(ペギー葉山を除く)。

・哀しみ本線日本海(森昌子)
・銀座カンカン娘(高峰秀子)
・南国土佐を後にして(ペギー葉山)
・おもいで酒(小林幸子)
〜〜アクースティック・ギター・パート
・丸の内サディスティック(椎名林檎)
・Silly(家入レオ)
〜〜ラウンド・コーナー
・ダンシング・ヒーロー(荻野目洋子)
・夢見る少女じゃいられない(相川七瀬)
・少女A(中森明菜)
・プレイバック part 2(山口百恵)
・飾りじゃないのよ涙は(中森明菜)
〜〜
・ノラ(門倉有希)

このサード DVD にはラウンド・コーナー終了後に必殺の「ノラ」が収録されているということで、しかもそれがいまだに CD には収録されていない、この DVD だけ、ということで、どうしても気持ちがそこへ行ってしまいます。サード DVD の白眉というばかりか、五枚ぜんぶの DVD トータルでもクライマックスなんじゃないでしょうか。

美咲ヴァージョンのこの「ノラ」もまたつらく苦しい恋を歌ったもので、ちょうどいまの、そう2019年「恋の終わり三軒茶屋」、2020年「右手と左手のブルース」といった最新オリジナル楽曲の傾向にわりと合致する、共通する路線の曲じゃないかと思いますね。2017年夏にすでにこういうのがあったんですよね。

「ノラ」で聴ける美咲のこの歌には、つらみ、苦しみをやわらかくくるむ無邪気さというか無垢さをも感じる部分があり、どんよりした内容の歌ですけど、翳りすぎない暗すぎないトーンをもたらすことに成功していますね。明るい調子の歌をやるときもちょうどいい感じに中和しますし、美咲の歌はいつでもその中庸さ加減が聴きやすくていいです。「ノラ」でもこんな深刻な内容をサラリと歌っているからこその迫真の歌唱力が身に沁みるんだと思うんです。

声の伸び、艶やかみ、あざやかみなども「ノラ」では完璧ですけれども、ぼくの印象としてはこのサード DVD になった2017年7月23日夜公演の美咲は、そもそもかなり調子がよかったんじゃないでしょうかね。DVD 全体を通してそう感じますし、コンサート冒頭からこの印象が持続します。2曲目「哀しみ本線日本海」でも聴かせますね。歌が胸に迫ります。

その後演歌カヴァー・コーナーみたいなのが続きますが、そこで歌われているなかでは「おもいで酒」だけがイマイチな出来かもしれません。なんたってこの曲は旋律が細かく上下してむずかしいんですよね。オリジナルの小林幸子はさすがにうまく歌っていますが、カヴァーするほとんどどの歌手も微細なメロディのひだのゆらめきで音程をうまくとれていません。特にコーラス終わりの「おもいで酒に、酔うばかり」の「ば〜か〜〜り」部。美咲も不安定です。

しかしこれ以外の「銀座カンカン娘」「南国土佐を後にして」はきれいに歌いこなしていますよね。後者はしっとり系ですけど、前者は美咲も得意とする陽気なビート・ナンバー。高峰秀子のレコードが初演ですけど、笠置シヅ子のヴァージョンで知られるようになった歌でしょう。笠置といえばブギウギものですけど、ああいった服部良一ナンバーは美咲にもピッタリ似合うと思うんですね。服部曲集を出してほしいと思うほどなんですけど、そんなこと言う美咲ファンはぼくだけですか?

続くアクースティック・ギター弾き語りコーナーは、ある意味「ノラ」とならぶこのサード DVD の白眉です。セカンド DVD の同コーナーがイマイチに聴こえましたから(特にギター)、半年でずいぶんよくなっているなという印象です。特に注目したいのは「Silly」。まるで水を得た魚。美咲のギターも歌も輝いています。こういう音楽が好き!やりたい!と言いたげな美咲の心からの気持ちが音に出ていますよね。ギターもヴォーカルも美しいです。

ギター・パート3曲目の「糸」にしたって、CD「鯖街道」特別記念盤ヴァージョンになった2017年5月の新宿ライヴではサポート・ミュージシャンがいましたからね。ところがこの7月ヴァージョンは美咲ひとりのギターと歌だけで、それで CD になった5月公演ヴァージョンに劣らないどころか、さらに一段よくなっているんじゃないかと思えるほどなんですから。特に声が活きていますよね。

ラウンド・コーナーではいつもながら1970〜80年代の歌謡曲ヒットを再現するという安定路線の美咲。ロック調で、なかにはマジなというかシリアスな感じがする歌もふくまれていますが、美咲はキュートでかわいらしく歌いこなしているのが特徴です。こういった発声は、ほかの箇所、たとえば演歌パートやギター弾き語りパートではそうなっていないことも多いですから、歌謡曲ヒットをやるときにあえて意識して選びとっているものなんでしょう。(演歌系の)声の伸びや張り、艶もまじっていますから、なかなか得がたい唯一無二の個性になっていると思えます。

ふりかえると2017年の美咲は充実していました。1月と7月にソロ・コンサートをやり、7月は二日間で三回公演でしたから、合計年間四公演分もソロ・コンサートをやった計算になります。5月と11月にはギター弾き語りライヴをやったので、それで二回。9月には地元千葉県印西市でもコンサートをやりました。つまり年間のコンサート総数がなんと七回なんですね。

たぶん美咲のデビュー後最も充実していて忙しかったのが2017年だったのではないでしょうか。その後徐々にしりすぼみ…、かわかりませんが、2020年のいまのこの状況を考えると、なんだか複雑な気持ちになってしまいます。

いずれにしてもこのサード DVD、「哀しみ本線日本海」「丸の内サディスティック」「Silly」「プレイバック part 2」「飾りじゃないのよ涙は」などはオリジナル歌手のヴァージョンよりも出来がいいし、全体的に聴きどころが満載で、美咲も終始ずっと調子よく元気で、ほぼ文句なしのすばらしい作品だと言えるでしょう。

(written 2020.5.13)

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