見出し画像

プロテスト・ソングの先駆け二曲

(4 min read)

このまえ、サッチモことルイ・アームストロングの公式 Instagram を眺めていて、ふとあることに気付きました。それはサッチモがオーケー時代の1929年7月22日に録音したファッツ・ウォラーの「ブラック・アンド・ブルー」は、実は最も初期のプロテスト・ソングだったんじゃないかという、キャプションでの記述を読んだことです。そう、そうですよね。黒人であることがなぜ悪いのだ?と問いかける内容の歌ですからね。

それで、ぼくがもう一曲思い当たったのは、デューク・エリントン楽団の「ブラック・アンド・タン・ファンタシー」です。こっちは初演が1927年4月7日のブランズウィック録音で、戦前だけでもその後たびたび各種レーベルに録音されています。上掲 Spotify プレイリストには、それら二曲のそれぞれの初演ヴァージョン(エリントンのほうは初演がなかったので同年の再演)と、両方の戦後の再演ヴァージョン(1955、1966)との計四つを収録しておきました。

サッチモの公式 Instagram アカウントがそんな投稿をしたのは、もちろんここのところもりあがりをみせているブラック・ライヴズ・マター運動を背景にしたものでしょう。音楽の世界でも、こないだ日本の『ミュージック・マガジン』が同問題を特集しましたが、実際、特にアメリカ音楽の世界でも黒人差別問題をとりあげた音楽を強く見直したり再評価する動きが目立っています。

そんななか、人種差別を問題視するプロテスト・ソングの歴史を、アメリカン・ポピュラー・ミュージックの歴史をさかのぼってさぐってみれば、やはりエリントンの「ブラック・アンド・タン・ファンタシー」やサッチモの(ファッツは未録音)「ブラック・アンド・ブルー」にたどりつくということになるんじゃないでしょうか。

「ブラック・アンド・ブルー」のほうは歌詞がありますから理解しやすいと思いますが、エリントンの「ブラック・アンド・タン・ファンタシー」は、ブラック(黒人)とタン(混血)が、白人中心のアメリカ社会で蔑視され虐げられ滅びゆく運命の人間なのであるという悲哀をつづったジャズ幻想曲です。末尾にショパンの「葬送行進曲」が引用されていることにも注目してください。われわれ黒人とはそんなにも哀れな人種なのであるという、1920年代当時としては精一杯のプロテストだったでしょう。

きょうの Spotify プレイリスト、これら二曲とも両者自身による戦後の再演ヴァージョンも収録しておいたのは、やはり時代を経てのフィーリングの違いが聴きとれるんじゃないかと思ったからです。二曲とも、悲哀一色の1920年代の初演に比べ、1950〜60年代での再演にはコブシを突き上げ人権解放を強くアピールしようというような、そんなムードだってあるんじゃないでしょうか。特に1966年という公民権運動まっただなかに録音されたエリントンの「ブラック・アンド・タン・ファンタシー」再演はパワフルです。

こういった古い曲が2020年のブラック・ライヴズ・マター運動とどう結びついているかは、みなさんでも考えてみてほしいのですが、アメリカ社会で黒人が置かれた状況が、様相や曲想、曲調など違えど、どんな時代でもプロテスト・ソングを生み出してきたということは間違いないことで、1960年代あたりから急にもりあがりをみせはじめたというものではなく、古く戦前からあったのだということは確認しておきたいと思います。

(written 2020.7.26)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?