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ジャズ・メッセンジャーズ『ジャスト・クーリン』がお蔵入りしていたのは

(6 min read)

Art Blakey & the Jazz Messengers / Just Coolin’

2020年の7月にはじめてこの世に出たアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの未発表作品『ジャスト・クーリン』。1959年3月録音です。ブルー・ノート公式はリリース数ヶ月前から出すぞ出すぞと告知し続けていて、収録曲を小出しにちょっとづつ聴けるようにしていたりなど宣伝に努め、ぼくらファンの期待を高めてきていました。だからちょっとこう、いざフル・アルバムがリリースされて聴く際にやや気負ってしまったというか、聴いてもこんなもんか〜、っていう気持ちになってしまったのも事実ですね。

それでも冷静に内容を聴けばなかなか上質のハード・バップ作品には違いないと言えますね。この『ジャスト・クーリン』は、ちょうど1958年黄金期のジャズ・メッセンジャーズのメンバーにして音楽監督だったテナー・サックスのベニー・ゴルスンが抜けたあとのセッションで、ゴルスンの後釜の音楽監督にはのちに新進のウェイン・ショーターが座ったんですけど、ちょうどそれまでのあいだの端境期だったので、臨時にバンドの初代メンバーだったハンク・モブリーを参加させています。

だから『ジャスト・クーリン』はリー・モーガン、ハンク・モブリー、ボビー・ティモンズ、ジミー・メリット、アート・ブレイキーという布陣で行われたセッション。1959年でこのメンツというと、ぼくはどうしてもライヴ・アルバム『アット・ザ・ジャズ・コーナー・オヴ・ザ・ワールド』(1959)を思い出してしまいます。そして、このライヴ・アルバム制作と『ジャスト・クーリン』がお蔵入りしたのには関係があったと思うんですよね。

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ニュー・ヨークはバードランドでのライヴ収録である『アット・ザ・ジャズ・コーナー・オヴ・ザ・ワールド』は1959年4月の録音。スタジオで『ジャスト・クーリン』を完成させたのがその一ヶ月前で、時期的に近接。さらにメンバーは同じ。そしてレパートリーも『ジャスト・クーリン』のセッションで完成した曲が四つ、バードランド・ライヴでも演奏されているということで、ブルー・ノートのアルフレッド・ライオンとしては、リリースするのはどっちかでいいだろうと、ならばイキのいいライヴのほうを出したい、となったのではないかというのがぼくの推測なんですね。

そんなわけで、なかなかクォリティの高い『ジャスト・クーリン』がそのままお蔵入りしてしまったのはちょっと残念でしたが、これがリリースされるというブルー・ノート公式アナウンスを読んで、個人的にいちばんワクワクしたのは「ヒプシピー・ブルーズ」があるということでした。このハンク・モブリー作の曲、大ぁ〜い好きなんですよねえ。

もちろん大学生のころから『アット・ザ・ジャズ・コーナー・オヴ・ザ・ワールド』一枚目の1曲目で聴いて惚れちゃっていたわけなんですが、そう、惚れちゃったという表現がピッタリ似合うくらいこの12小節ブルーズの、特にテーマ・メロディの動きのことが、そりゃあもう大好きなんですよね。なんてチャーミングなのだろうと。そして都会の夜によく似合うムーディさ。これがもうたまりません。だからそれが『ジャスト・クーリン』でも幕開けだと知って、ほんとうにうれしかったですね。

はたしてスタジオ録音で聴く「ヒプシピー・ブルーズ」は、ちょっと分が悪いっていうか、長年ライヴ・ヴァージョンを聴きすぎてきていたせいで、なんというか、やや物足りない感じがするのは否めません。特にですね、バードランド・ライヴではまずカウントがあってからスネアぼん!が入り、そのままリー・モーガンが一人で出て、5小節目からモブリーが参加しての二管ハーモニーになるその瞬間にグッときていたんですよね。スタジオ・ヴァージョンでは最初から二管のハモリなんで、う〜ん、イマイチ。

でも旋律が魅力的なのは変わりありませんし、各人のソロだって充実していますから(モブリーはいろんな有名曲を引用しています)、今後はこっちが標準になっていくのかもしれないですね。2曲目以後も、スタンダードの「クローズ・ユア・アイズ」以下、オリジナルはモブリーの書いた曲が多いようですが(音楽監督もモブリー?)、黄金のハード・バップ・フォーマットそのまんまで、古くさいっていえばそうなんですけど、不滅のジャズ・スタイルですよね。

こういった音楽は、ジャズ・ファンなら聴けばいつでも落ち着くことのできるものなんですよね。ゴスペル・ベースのファンキーさは薄く、常套的なハード・バップ・アルバムだなと思います。

(written 2020.8.3)


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