コーヒー狂にとってのフェア・トレード
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コーヒーの世界にちょっとでも深く入っていったことがあればみんな知っているものに「フェア・トレード」があります。
コーヒー豆が流通する巨大市場は欧米など先進国が中心ですが、豆の産地というか農園があるのはいはゆる発展途上国。熱帯など気温の高い赤道周辺じゃないと栽培できない植物なので。それを指してコーヒー・ベルトと呼んだりします。
グローバルな豆の流通価格を決めるのは農園労働と無関係な欧米のマーケット。安く買ってどんどん売りたいというわけか、適正価格よりもずっと低い報酬しかコーヒー・ベルトにある産地の農園労働者には入らなかったりもするという事実があります。
こうした格差というか搾取構造を是正すべく、市場流通価格がちょっと上がっても(どうしても立場が弱くなってしまいがちな)現地生産者などにちゃんとした報酬を払おう、公平で正当な取引(フェア・トレード)をしようよというムーヴメントが1960年代からあるわけです。
もちろんフェア・トレードはコーヒー豆の世界だけでなく、主として熱帯地域などで栽培され先進国でさばかれる農作物流通などにひろく存在する思想です。ぼくは熱狂的なコーヒー好きなので、そこに興味があるだけ。
考えてみれば、音楽の世界にだって同様の事情があるかもしれませんよね。古いことばでいえば第三世界というか、アフリカ、ラテン・アメリカ、アジアなどにオリジンがある魅力的な音楽を、巨大マーケットである特にアメリカ合衆国やイギリスのジャズやロック、ポップスなど大衆音楽市場がとりいれて、クレジットもせず元の音楽家に正当な報酬が入らないまま、大ヒットさせて、莫大な稼ぎを得るといったことがあったんじゃないでしょうか。
大衆音楽で、こうした事情を見なおし、ちゃんとフェアにやろうよという動きが鮮明化したのは、おそらくワールド・ミュージックがブームになった1980年代後半〜90年代以後だったんじゃないかとぼくにはみえています。植民地主義と奴隷貿易がなかったら誕生すらしていなかった世界かもしれないと思うと切ないのですが。
フェア・トレードのコーヒー豆は、ですから価格が高めです。ぼくがふだん松山市内で買っている焙煎豆はだいたい200gで¥780〜¥1400程度のことが多いんですが、フェア・トレード豆を買おうとなればやはり高価になってしまい、毎日どんどん挽いては淹れて飲むにはつらいんです。アイス・コーヒーの季節なら毎月1.3kgくらい消費しますから。
個人愛好家もそうだし、商売でやっている焙煎ショップやカフェやレストランなんかでも、フェア・トレード豆を扱っていますというのを意識高い系カスタマー向けの売りにするケースを除き、単価が高くちゃやっていけないわけですから、なかなかむずかしいという事情があるんじゃないでしょうか。
いまちょっとネットで複数のフェア・トレード・コーヒー販売サイトを覗いてみたら、200gで¥1,500〜¥2,000以上程度するケースが多いようです。もっと安い商品も見つかりますが、安価だとほんとうにフェア・トレードなのか?という疑義が生じるというのが正直な気持ち。
そんなわけでなかなかフェア・トレード・コーヒーは普及しません。高価なフェア・トレード豆ならそのぶん風味も向上するのか?というとべつにそんなことはなく、コーヒー豆約1kgを生産し納めても約40円でしか買い取られないようなケースだってあるという現状に加担するのはガマンならないという層じゃなければ、特に興味もないかも。
ただ、フェア・トレード制度がもっと進み普及率もさらに上がれば、コーヒー豆のクォリティがぐんとよくなるであろう可能性があります。農園労働環境が向上するわけですから、生産品の質も上がっていくだろうことはわかりやすいですよね。規模が大きくなれば、価格だってもっとこなれてくるはず。
それに世界のだれかの犠牲の上にぼくらのふだんのおいしいコーヒー生活が成立しているのかも?という事実を知れば、そこをしっかり是正していってほしい、じゃないと平常心でいられない、おいしいコーヒーの風味にも影が差そうというもの。コーヒー農園が持続していってほしいですし。一生飲み続けたいわけですから。
もちろん日々たくさん飲むコーヒー愛好家にとっては、お財布状況にさほどの余裕がないばあい、安価じゃないと買い続けられないというのが正直な気持ち。こうした折り合い、妥協点をどのへんのポイントでどう見つけるか?ということが一般生活人にとっては大切になってくると思います。
(written 2022.6.29)
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