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涼やかでしなやかな生命力 〜 ミゲル・ヒロシ

(3 min read)

Miguel Hiroshi / Oníriko Orinoko

スペイン人パーカッショニスト、ミゲル・ヒロシのファースト・アルバム『Oníriko Orinoko』(2019)はほんとうに美しい音楽。ミゲルは鎌倉生まれだそう。ヒロシっていう名前と関係あるんでしょうか。でも生後すぐスペインに戻ったらしいです。

ミゲルは2000年生まれの新しい打楽器であるハング・ドラム(ハンド・パン)というものを演奏するひとで、それは素手で叩くスティール・ドラムみたいなもの。頻繁に聴こえる親指ピアノもミゲルの演奏でしょうし、打楽器全般担当していると思います。

アルバムはクールでミニマルな音像で、さわやかさ、端正さがただよっていて、まるでECMの音楽を聴いているような感触です。ジャジーではあるけれど、ジャズ・ミュージックとまで断言できないものかも。世界中のパーカッション・ミュージックを俯瞰したような内容です。

個人的にミゲルの演奏するハング・ドラムその他打楽器群にさほどは耳がいかなくて、もっとサウンド全体の組み立てみたいな部分に注目したくなります。コンポジションやアレンジ面での工夫も目立っていますしね。

そして、プリミティヴな楽器の響きと現代的な演奏やアレンジが融合されているというのも特徴で、聴いた感じジャジーな洗練からは遠い音楽かもなと感じます。アフリカ音楽のクールネスに近いものがあるような。

もちろんシャイ・マエストロがピアノを弾く数曲など、現代ジャズともクロスする部分はあって、そういったあたりでは2010年代以後的なジャズの感性を強く打ち出しているなという印象ですね。ジェンベやベルほか数種の打楽器に、水を手で漕ぐ音、シンセサイザーまでを多重録音した曲もあったり、J. S. バッハの曲を親指ピアノで独奏したり。

シンセサイザーやハング・ドラムが混然一体となり強力なビートへと転化するラストまで、心地よく聴き手を一気に導いてくれるアルバムの構成もみごとで、フラメンコやジャズはもちろん、アフリカ音楽やインド音楽の世界観までをも吸収した、アクースティックでアンビエント、ときにスピリチュアルな佳作でしょう。

(written 2021.8.29)

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