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現代に再創造されたブルー・ノート・クラシックス〜『ブルー・ノート・リ:イマジンド』

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v.a. / Blue Note Re:imagined

10月16日にようやくサブスクでも解禁になった『ブルー・ノート・リ:イマジンド』(2020)。ブルー・ノートと英デッカが全面タッグを組んで、1960〜70年代のブルー・ノート・クラシックスの数々をUKの最新鋭ジャズ〜R&Bミュージシャンたちが再解釈したカヴァーを収録する、一種のコンピレイション・アルバムです。といってもすべてこのための新録みたいですけどね。

これがなかなかおもしろいんですよね。カヴァーされているブルー・ノート・クラシックスは有名なものばかりですけど、演唱している若手UKミュージシャンたちのなかにぼくの知っていた名前はほぼなし。聴いたことがあったのはエズラ・コレクティヴとシャバカ・ハッチングズだけくらい。ほかは初めて知る名前ばかりで、調べてみたらやはり最近シーンに登場してきたひとたちが多いみたいです。

カヴァーされている原曲は、ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、ボビー・ハッチャースン、ジョー・ヘンダスン、ドナルド・バード、エディ・ヘンダスン、マッコイ・タイナー、アンドルー・ヒルなど、時代をかたちづくった名曲ばかり。ブルー・ノートは昨2019年に創立80周年を迎えており、過去の名カタログを見なおすプロジェクトを進めています。

その一環として『ブルー・ノート・リ:イマジンド』も位置付けられるものでしょうが、結果としては遺産の偉大さを示すというよりも、現代のUK最新鋭ジャズ/R&Bのおもしろみがきわだつ内容となっているのが楽しいところ。原曲の面影をまったくといっていいほどとどめていない再解釈もあり、完全なる新曲みたいなものすらあります。

たとえば3曲目、ポピー・アジュダの「ウォーターメロン・マン(アンダー・ザ・サン)」。これ、ハービーの書いた曲はどこにあるの?1974年にハービー自身がファンク化して再演したヴァージョン冒頭に入っていたあの例の(瓶を吹くような)リフしかないっていう、その後はまったくのポピーの新曲になっていますよねえ。しかしリスペクトの念はあるといいうことなんでしょう。

これは極端な例ですが、このアルバムでは多かれ少なかれブルー・ノート・クラシックスは換骨奪胎、解体・再構築されているばあいが多いです。キーになっているのはビート・メイクと、中域を抜いた低音の重視でしょうか。ビートは生演奏ドラムスを使ってあるばあいと、デジタルな打ち込みと、その両方が混在しているようです。生演奏ドラミングにしても、かつてはコンピューターでつくっていたようなビート感を再現しているわけですから、感覚的には同じですね。

中音域を抜いて重低音をメインにダウン&ヘヴィなサウンド・メイクをするのも、現代的な意匠と言えましょう。ここ数年の(アメリカふくめ)最新R&Bでも顕著な傾向で、結果としては上物の楽器演奏やヴォーカルがポンと目立つことになっていて、そうしたかったから中域はジャマで、どかそうってことだったのかもしれません。

ヴォーカル・ナンバーが多いのもこのアルバムの特色でしょう。ブルー・ノート・クラシックスのほうにヴォーカル・ナンバーはほとんどありませんから、だいたいぜんぶが今回あらたに歌われたわけです。図らずも原曲の持つメロディのよさがきわだつ結果に思えるのはすばらしいところ。といってもかなりフェイクしてあったりしてわかりにくかったりしますけどね。

オリジナルがはっきりわかるというか聴こえてくるものだってあり(エズラ・コレクティヴの「フットプリンツ」、ミスター・ジュークスの「メイドン・ヴォヤージ」など)、それらではオリジナルのメロディの下支えをヒップ・ホップ以後的なビートが裏打ちしているので、新旧合体っていうか、古典の現代化のありようがよくわかるものかもしれません。

いずれにしても、ぼくがビート好き人間だからなのか聴いていてほんとうに心地いい時間を過ごすことのできるこのアルバム『ブルー・ノート・リ:イマジンド』。かつて1960〜70年代に書かれ演奏されたブルー・ノート・クラシックスの2020年的最新の再解釈集として、ちょっとした楽しみになりえるものでしょう。レーベル設立以後ずっとコンテンポラリーなブラック・ジャズを世に送り出し続けてきているブルー・ノートの伝統がここになっても生きているという証左でもありますよね。

(written 2020.10.20)

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