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コクのある声とデリケートなサウンド・メイク 〜 ミリ・ロボ『Caldera Preta』

(3 min read)

Mirri Lobo / Caldera Preta

『Salgadim』(2019)でミリ・ロボのバラードにとろけたついでに、紹介してくださったbunboniさんは聴いていないという2010年の『Caldera Preta』、Spotifyにあったので、ちょっと聴いてみました。

そうしたらこっちもすばらしいじゃないですか。 『Salgadim』では(特にバラード系で)完璧ノック・アウトされちゃたぼくですけど、その世界がすでにできあがっています。バラードだけでなくそのほかもふくめ、この『Caldera Preta』もたいへんすばらしいアルバムですよね。

『Salgadim』では消えちゃっている、『Caldera Preta』ならではの音楽的特徴というと、冒頭三曲で聴ける西アフリカ風味です。バラフォンを使ったりコラを使ったり(どっちもサンプリングかもだけど)して、曲調もなんだかマンデ・ポップっぽいニュアンスをかすかに持たせたりしつつ、それをカーボ・ヴェルデ・ポップのなかに隠し味としてうまく流し込んでいます。

そのおかげでミリ・ロボのこの音楽に幅が出てきているんですね。ミリというよりサウンド・プロデューサーの功績でしょうけど、だれがやったんでしょうかねえ。アコーディオンが聴こえるのはカーボ・ヴェルデ音楽ではあたりまえですが、西アフリカっぽい曲のテイストのなかにアコが混じることで、えもいわれぬ香味をかもしだしています。

4曲目以後は、完璧『Salgadim』の予告編ともいうべき官能の世界。色と艶、コクのあるまろやかな味わいなど、ミリ・ロボのヴォーカルだってすでに100%円熟しているし、言うことなしですね。アルバム・タイトル曲の4「Caldera Preta」は、これまた必殺のセクシー・バラード。ギターのサウンドだけに乗ってしっとりとつづりはじめるミリ・ロボのヴォーカルに身がよじれます。

こういうのは『Salgadim』にあった「Mas Un Amor」と完璧同一路線ですから、あるいはこの2010年作もキム・アルヴェスの仕事なのかもしれません。出だし1コーラス目のAメロはギター伴奏だけで歌い、サビから伴奏が控えめに入ってきてグンと雰囲気を昂めるあたりの演出も、同じやりかたですけどなかなかニクイですね。

もちろんフナナーやコラデイラ系のビートの効いた曲群もすばらしく、ていねいにつくりこまれたサウンドの上で余裕を持ちながら軽く歌っているかのようなミリ・ロボのこの、年輪を重ねたがゆえに出せているのであろうコクのあるまろやかな味わいに降参してしまいます。デリケートなサウンド・メイクも絶品。

(written 2021.3.19)

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