見出し画像

ジャジー・カントリー二題(2)〜 ライル・ラヴェット

(3 min read)

Lyle Lovett / 12th of June

Astralさんのブログで知りました。

きのう書いたマイケル・ファインシュタイン『ガーシュウィン・カントリー』にも一曲参加し歌っていたライル・ラヴェット。ぼくは俳優との認識しかほぼ持っていなかったので、歌えるひとなんだと知って、しかしめずらしいことでもありませんが。

歌えるというより音楽家として立派なんだというのは、最新作『12th of June』(2022)を聴いてもよくわかります。カントリー系のシンガー・ソングライターなんだそうですが、本作ではジャズとカントリーの融合を試みています。どっちかというとジャズ寄りかな。

しかもけっこうレトロっていうか、たとえば1曲目の「クッキン・アット・ジ・コンティネンタル」はホレス・シルヴァーの書いたインスト・ハード・バップなんですけど、ここでのライルのヴァージョンだと、特にフィドル・ソロの出るあたり、いやそもそも全体のグルーヴ感が、スウィング・ジャズ期のフィーリングをかもしだしていますよね。

フィドルはアルバム全編で活躍していて、カントリー・テイストを音楽につけくわえているのと同時に、そもそもメインストリームなジャズでもビ・バップ以前はそこそこ使われた楽器なので、そんなレトロ・ジャジーな雰囲気をも、ちょっぴりジャイヴなそれを、プラスしているんです。

3曲目がナット・キング・コール・トリオの「ストレイトゥン・アップ・アンド・フライ・ライト」だし4曲目はなんとあのノヴェルティでえっちな「ジー、ベイビー、エイント・アイ・グッド・トゥ・ユー」をやっているという。どっちもすでに忘れ去られジャズの歴史の山のなかに埋もれていたようなものですよ。

それをライルは発掘して再演しているわけで、レトロ・ジャズ・ムーヴメントもますますさかんなんだなあと実感しますね。しかし、両曲とも(特に後者)けっこう濃ゆい味つけで演奏されることが多かったのを、ライルはあっさり薄味のおだやかかな料理に仕立ててあって、ここはグローバル・ポップスの最新流行と合致するやりかたです。

そういった、レトロな眼差しを向けつつ同時にコンテンポラリーな作法でやるという両面あわせもっているのは、これもライルがカントリー界でやってきてそこから学んで応用しているのかもしれないと思えます。

ラスト11曲目「オン・ア・ウィンターズ・モーニング」なんか、ペダル・スティールをからめてカントリー・ソングふうに前半は演奏されるのに、ディキシーランド・ジャズそのまんまなホーンズのからみあいでフェイド・アウトする終盤へのスムースな移行を聴いて、そんなことを考えました。

(written 2022.6.12)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?