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香港フィーリン 〜 崔萍「重逢」

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崔萍 / 群星會25崔萍

ハルビン生まれの香港歌手、崔萍(ツイ・ピン)。こないだエル・スールのホーム・ページをぶらぶらしていてたいへん気になる一節を見つけました。それは崔萍の「重逢」は極東フィーリンの最重要曲の一つであるとの指摘です。

フィーリンにはひとかたならぬ思いがありますからね、ぼくは。そんな、最重要曲の一つだなんて言われたら聴かないわけにはいかないですよ。あわててSpotify検索したら、崔萍の「重逢」、ありました。コンピレイションでしょうけど『群星會25崔萍』というアルバムにちゃんと収録されていたんです。

それで聴きました、崔萍の「重逢」と、アルバム『群星會25崔萍』を。これ、Spotifyでは1945と表示されていますが、こりゃなんの年でしょうかね、崔萍は1960年にシングル・デビューしているわけで、だから45年がなんの意味なのかちょっとわからないです。

ともかく崔萍は1960年にレコード・デビューしたのち、64年にアルバム・デビュー、その後七年間で10枚のアルバムをリリースするも、72年に引退してしまったそうです。Spotifyでも聴ける『群星會25崔萍』がいつごろの録音を収録したものか不明ですが、60年代ではありそうです。

で、問題の「重逢」。たしかにフィーリンっぽいですよね。リズムがボレーロ・スタイルの8ビートで、しかもストレートに感情を込めすぎず一歩引いてクールにやるアレンジとヴォーカル・スタイルはまさにフィーリン。キューバ(やメキシコ)におけるフィーリンは、たぶん1950年代が流行期だったでしょうから、崔萍が「重逢」を録音した、何年かわからないけど60年代には香港にも渡ってきていたでしょう。

こういった、過剰な感情表現をせず抑制を効かせ淡々とやる、ナイーヴで素直な表現スタイル、ひとことにすればクールなやりかたが最近大好きなぼくですから、それは北米合衆国のジャズでも日本の演歌でもそうで、香港でも崔萍が「重逢」を歌っていたことがわかって、ほんとうにうれしい気分です。

ふりかえってアルバム『群星會25崔萍』全体をみわたせば、そんなクールに抑制の効いたフィーリンっぽい味はそこかしこに感じられます。やっぱり中国歌謡だなと思える要素がいちばん濃厚ですけど、そんなときでも崔萍はエモーショナルにならず一歩引いて落ち着いたヴォーカルを心がけているのがわかります。8ビートのボレーロ・スタイルのリズムを持ったフィーリンっぽい曲だって複数見つけることができましたよ。

そのほか、まだロック・ミュージックに侵襲されていなかったのか、全体でみて中国系旋律のなかにジャジーだったりラテン・ジャズ的ポップ・フィーリングでのサウンド・アレンジを施しているものが多く、なかにはまったく中国系じゃないストレートなスウィング系ジャズ・ソングもあったりします。

さらに、三連のダダダ・リズムが効いた6/8拍子のものも二曲あって、まるで米ルイジアナ・スワンプ・ポップに聴こえたりするのも楽しいところですね。アマリア・ロドリゲスやヒバ・タワジみたいに濃厚なエモーションを表出してグリグリやるスタイルの歌手だっていまだ好きですけど、いっぽうでこういった崔萍みたいな、あるいはカエターノ・ヴェローゾとか近年の坂本冬美とか、ほんとうにいいなあ〜ってしみじみ感じ入ります。

(written 2020.11.25)

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