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多彩な音色で楽しませる、アフリカ音楽ふうに解釈したハービー・ハンコック 〜 リオーネル・ルエケ

(4 min read)

Lionel Loueke / HH

ギターリスト、リオーネル・ルエケ(ベニン)のソロ新作アルバム『HH』(2020)は、そのアルバム題で察せられるとおりハービー・ハンコック曲集となっています。これがなかなかの快作なんですよねえ。

ハービーはリオーネルをバンドのギターリストに起用して育てあげてきた、いわば師匠ですから、『HH』は恩返し、オマージュ的な作品といえるのでしょう。ハービーの旧新楽曲をとりあげて、しかもリオーネルはなんとソロ・ギター・パフォーマンス、つまりギター一本だけでそれを表現しているんです。ビックリですよねえ。

基本このアルバムでのリオーネルはアクースティック・ギターを弾いているばあいが多いみたいですね。一部でエレキ・ギターも弾いてはいますし、アクギでも多彩なエフェクトを駆使したり、音を重ねたりヴォイスを使ったりしていますから、なかなか一筋縄ではいかないソロ・ギター・パフォーマンスです。

全体的に、聴いた感じ静謐でリラクシング、落ち着いたクールな印象がある作品ですが、ピンと張りつめた緊張感も伝わってきます。ハービーがバンドで実現していた曲の数々をソロ・ギター演奏で実現するわけですから、大胆な工夫は必要です。それでリオーネルは原曲をかなり換骨奪胎していますよね。

ちょっと聴き、ハービーの原曲を思い起こすことのできるトラックはあまりなく、あくまでソロ・ギター・ピースとして活きるように再解釈されています。ハービーの曲ってメロディがキレイで楽しくて親しみやすく口ずさみやすいっていうのが、いつの時代でも大きな特長だったんですけど、『HH』でそれが聴きとれるのは6曲目の「バタフライ」だけくらいなもの。ほかはほぼリオーネルの書いた新曲と言いたいくらいの内容です。

なかでも特におもしろいなと思ったのは4曲目の「アクチュアル・プルーフ」。ジャズ・ファンク・チューンだったんですけど、ここでのリオーネルのギターは完璧なるバラフォン・スタイル。アクギの音色もバラフォンのそれを再現しているし、フレーズのつむぎかたもバラフォンでのそれを模しています。西アフリカ音楽的に再解釈しているというわけですが、しかしこれ、どんなエフェクト使ったらアクギでこんなバラフォンの音色になるんだろう?

そのほかアクギでもエレキでも多彩なエフェクトを駆使して音色のカラーリングで楽しませてくれるというのは『HH』の多くのトラックで言えること。バラフォンだけでなく、親指ピアノの音色とフレーズつくりのスタイルを移植したような曲もあるし、全体的にハービーのアフリカふう解釈という印象がありますね。しかもこういったクールネスはアフリカ音楽に特徴的なものです。

11曲目「ロックイット」出だしのサウンドも楽しいし、14「ワン・フィンガー・スナップ」でのギター・サウンドは、まるでスティール・パンのそれにそっくりじゃないですか。だからトリニダードっていうかカリブ音楽ふうの一曲に仕上がっていて、これ、ハービーの原曲は1964年のジャズ・ナンバーだったんですけどね。これにもビックリ。リオーネルはスティール・パンふうにアジャストしたギター・サウンドで反復フレーズをつくり、そのヒプノティックなループの上にソロ・フレーズを重ねています。いやあ、降参。

(written 2020.12.3)

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