しんどいとき助けになる音楽(22)〜 マイルズ『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』
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Miles Davis / Someday My Prince Will Come
マイルズ・デイヴィスの諸作中もっとも保守的なアルバムだったかもといえる『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』(1961)。ジャズの歴史を変えた時代を創ったなんていう部分はこれっぽっちもありませんが、音楽は上々ですよね。実は隠れファンの多い作品で、ぼくも大好き。
全体的におっとりしたおだやかな内容で、とってもプリティ。そんなところがファンの支持を集めている理由でしょうし、ぼくも体調のひどく悪いのが続く時期に聴いて「いいね」と思えるわけです。いまは荒々しいファンク期なんかとてもムリですから。
有名スタンダードと自作がいりまじり、そういえばこの後のマイルズはきれいなバラードなんかほとんどやらなくなってしまったのでした(1981年復帰後を除く)。だからこのアルバムが最後期くらいにあたります。それも愛されている理由でしょうね。
丸い音色でやわらかく吹くサックスのハンク・モブリーも好ましく、またウィントン・ケリーを中心にしたリズム・セクションも中庸を心得ていて、いい味です。それに乗せてボスもリリカルであるという本来の美点を存分に発揮しています。
二曲でゲスト参加のジョン・コルトレインだっていいスパイスになっていて、この時期のシーツ・オヴ・サウンドを駆使するトレインにマイルズは大きな信頼を寄せていたことがよくわかる吹かせかたです。
ジャズ・クリティシズムにおけるマイルズ・デイヴィスという存在とその評価は「歴史をかたちづくったクリエイティビティ」という一点に集約されていて、『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』みたいな、なんでもないハード・バップだけどとっても気持ちいいという作品はかえりみられないのが残念です。
(written 2023.9.5)
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