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青春のスーヴニア(2)〜 ビル・エヴァンズ『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』

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Bill Evans / You Must Believe In Spring

(オリジナル・アルバムは7曲目まで)

高三1979年で電撃的に突如ジャズ熱愛者に豹変したんですが(しつこい)、本格的にはお金と、なにより時間的な余裕が手に入った80年4月からの大学生時代がジャズざんまいの日々でした。

そんなジャズきちとしての青春にいちばんのBGMになっていたのがビル・エヴァンズ。そりゃあ個人的にはウィントン・ケリーみたいなスタイルのほうが好きでしたが、エヴァンズはジャズ喫茶など関係各所で、もう流れまくっていたんです。

1980年の9月に亡くなったというのが、こりゃまたそのころのエヴァンズ熱にいっそう拍車をかけていました。これはあの当時のことをリアルタイムで経験したジャズ・ファンなら間違いなく記憶があるはず。

死の翌81年にリリースされたアルバムが『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』。録音は77年に行われています。追悼盤みたいになっていて、実を言うと自分では当時レコードを買わなかったんですが(CD買ったのはたしか1990年代末)それでも鮮明に音楽を記憶していますから。ジャズ喫茶などでこれでもかというほど聴いたんです。

大学四年間のジャズ狂生活でいちばん耳に入ってきていた音楽がエヴァンズの『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』だったとしても過言ではないと思うほど。当時から「さほど好きじゃないよ」と意識したり発言したりしていたのは、周囲のそんなフィーバーぶりへの反発というのもあったんじゃないかといまでは思います。

そこから長い年月が経ってぼくも還暦。自分の心に素直に、好きなものは好きだと、イマイチなものもそう言おう、偽らずウソをつかず正直に対応しようという気分になっているんですが、するとやっぱりエヴァンズみたいなピアニストはほんとうにそれほど大好きというほどには感じず。猛然とスウィンギーにドライヴする黒人ピアニストのほうが個人的な嗜好には合います。

それでも(エモーションは内に秘めて)おだやかで静かで淡々と美の世界に耽溺しているような音楽をどんどん聴き、そういうのがいいなと心から感じるようになってみて、平穏でなにもない日々に若かったころのことをなつかしく思い出し、ぼんやり感慨にふけって、いい気分といういまのぼく。

そうすると、エヴァンズのピアノ、特に『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』みたいな体内の芯奥に沁み込んだ青春の音記憶は、いま聴きかえすと、あぁすばらしい、なんてきれいな音楽だろうか、これこそがぼくのジュヴナイルだったなあと思い出し、その後約40年の経過で失ったものと、だからこそ得たものに思いをいたします。

こんなところまで来たんだなあと、同じアルバムを聴いて、そう思うんです。

(written 2022.3.18)

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