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ハンク・モブリー『ポッピン』ではバリサクが好き

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Hank Mobley / Poppin'

ハンク・モブリーのブルー・ノート作『ポッピン』。1957年10月20日録音ながら、この世にはじめて出たのが1980年、しかも日本でのことだったみたいですね。当時このことをちっとも知らず、っていうかごくごく最近までこんなアルバムがあることに気がついてすらいなかったです。ついこないだのことですよ、いつものSpotify徘徊でこのアルバムのジャケット(上掲、オリジナルじゃないみたい)が目にとまり、あ、いいな、ちょっと聴いてみようかなとなったんです。

しかもそのジャケットにはバリトン・サックスが写っているでしょう。これが大きかったですね、バリトン・サックスの音色が大好きなんで。きっとバリサクが入っているんだろう、それなら、となったんですね。はたせるかな、このモブリーのアルバムにはペッパー・アダムズが参加していて(アート・ファーマーもいる三管)、バリバリ吹きまくってくれているんですね。そこが個人的にポイント高しです。

全五曲のこのアルバム、レコードもCDも知らないんですが、調べてみたら4、5曲目がB面だったらしく、そのB面分のほうがそれまでのA面分三曲よりいいんじゃないかと思います。二曲とも10分越えという、標準的なハード・バップ・チューンとしては長尺。4曲目がマイルズ・デイヴィスの「チューン・アップ」で、これが快調でみごとですよね。主役のテナー・サックス演奏はこんなもんかなと思います。

ちょっとよりみちしますが、マイルズ作となっている「チューン・アップ」は、実はマイルズではなくサックス奏者のエディ・クリーンヘッド・ヴィンスンが書いた曲であるというのは、わりと知られていることじゃないでしょうか。たぶんヴィンスンはマイルズのために書いたんだと思います。初録音が1953年の5月19日ですけど(プレスティジ盤『ブルー・ヘイズ』)、同年の1月か2月ごろマイルズはすでにライヴで演奏したという記録が残っています。『クッキン』収録の56年ヴァージョンが有名でしょうね。

マイルズ関連でもっと脇へ行くと、モブリーのこの話題にしている『ポッピン』、「チューン・アップ」に続く5曲目「イースト・オヴ・ブルックリン」(モブリー作)では、テーマ演奏部でだけラテン・リズムが使ってありますね。そういえばマイルズっていわゆるハード・バップ時代にラテン調リズムの曲をやったことがないんじゃないですか。

1960年代後半〜70年代以後はあんなに中南米リズムを追求したマイルズなのに、それ以前のハード・バップ時代にまったくやったことがない(かどうか、ともかくいまぱっと一つも思い出せない、「フラメンコ・スケッチズ」もスケールだけ)というのは不思議だったような気もします。ジャンル成立当初からジャズとラテン音楽の縁は深いし、なんでもない通常のハード・バップのなかにあんなにアフロ・キューバン・リズムがあるのにねえ。典型的ハード・バッパーのソニー・クラークだってたくさんやっていますよねえ。

あ、ソニー・クラークといえば、きょう話題にしているモブリー『ポッピン』のピアノもソニーなのでした。ソニーは作編曲能力に長けたひとなんで、だからリーダー作のほうがおもしろいんじゃないかというのがぼくの見解ですけど、こうやってセッション・ピアニストとしてもブルー・ノートでたくさんの作品に登場します。録音のせいもありますが、このゴロンとした決してなめらかではないピアノ・サウンドが、ソニーのばあいだとイイネと感じたりイマイチに思ったり。

さて、『ポッピン』に参加している注目のバリトン・サックス奏者ペッパー・アダムズですが、べつにアダムズじゃなくてもバリサクであればだれでもよかったんです。この低音サックスのことがなぜかずっとむかしからぼくは大好きで、そう、大学生のころにジェリー・マリガンとか(デューク・エリントン楽団の)ハリー・カーニーとか、もうホントどんどん聴いていました。ビッグ・バンドだと必ず一名いるんで、うれしいですね。

音域のこともさることながら、たぶん(エキゾティックな感じがする?)独特のその音色が好きなんだと思うんですよね。しかもバリサクだけを大々的にフィーチャーしているものよりも、このモブリーの『ポッピン』みたいにメンバーの一員としてときおりそのサウンドが聴こえてきたその瞬間に、あぁいいな〜!って感じちゃいます。ゴリゴリ、バリバリ、しかもなんだか都会の夜のメロウネスを感じる音色で、バリトン・サックスってほ〜んと魅力的。

(written 2020.7.13)


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