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ホレス・パーランのマンボ・ブルーズ

(3 min read)

Horace Parlan / Headin’ South

ホレス・パーランといえばファンキー&アーシーに攻めまくるゴスペル・ジャズのピアニストという印象ですが、このアルバム『ヘッディン・サウス』(1961)1曲目の「ヘディン・サウス」はいったいどうしたことでしょう?コンガにレイ・バレットをむかえ、ラテン・ジャズ路線まっしぐら。こんなホレス・パーランは聴いたことないですね。

このアルバムの編成は基本ピアノ・トリオなんですが、全八曲中六曲でレイ・バレットが参加して四人になっています。レイはもちろんプエルト・リコ系のコンガ奏者で、しばらく経ってファニア・オール・スターズで活躍するようになったので、特にジャズに興味のないラテン音楽ファンもみなさん周知の有名人です。1950〜60年代初頭はルー・ドナルドスンのアルバムなどこういったモダン・ジャズ・セッションで活動することがありました。

それにしても1曲目「ヘディン・サウス」のこのラテン調というかアフロ・キューバンな、もっといえばこれはマンボだと思うんですけど、このリズム感はすごいですよねえ。ホレスってそれまで特にこういった傾向の曲や演奏を残していなかったはずで、突如どうしたんでしょうかねえ。しかもベースのジョージ・タッカー、ドラムスのアル・ヘアウッドと全員が完璧なラテン乗りをこなしています。

なかでもやはりホレスのピアノが聴きものなのはいうまでもありませんが、アルのドラミング、特にシンバル・ワークもなかなかすごいですね。こういったパターンはモダン・ジャズ・ドラマーが(アート・ブレイキーでもそうだけど)アフロ・キューバン・ジャズに取り組むときの典型的なものであるとはいえ、それにしてもかなり聴けます、乗れます。

しかも曲「ヘディン・サウス」は12小節ブルーズですから、そこはホレスの自家薬籠中のものですね。ファンキーに、ブルージーに、そしてラテンに攻めるこのジャズ・ピアノ、それをホレス・パーランが弾いているという事実、に感動します。ゲスト参加みたいなレイ・バレットのコンガはこの曲では堅実なサポート役ですが、確実な推進力になっていますよね。

アルバムではまた、5曲目の「コンガレグレ」もなかなかですよ。曲題どおりレイのコンガ演奏をフィーチャーしたこれもラテン・ジャズ。ドラムスのアル・ヘアウッドが終始3・2クラーベのパターンを叩きます。アド・リブ・ソロの部分は4/4ビートなんですけど、そこにラテンなフィーリングも混ぜ込まれていますね。打楽器デュオ・パートになったらもう興奮のるつぼで、快哉を叫びます。

これら二曲以外は、このアルバムでもいつものホレスのブロック・コードをがんがん弾くアーシー路線なんですけれども、このジャズ・ピアニストがここまでラテン・ミュージック方向に振れた作品ってこれだけじゃないですかね。録音された1960年にはすでにアメリカ合衆国のジャズ界でもマンボはじめラテン・ミュージックはブーム。そこでちょっと本格的な感じを出してやってみようとなったのかもしれません。

(written 2020.5.21)


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