見出し画像

チェンチェン・ルー『ザ・パス』はなぜ話題にならないのか

(7 min read)

Chien Chien Lu / The Path

2021年もあと二ヶ月弱となりましたが、今年のぼくのヘヴィ・ロテ最上位は、上半期がパトリシア・ブレナンの『Maquishti』で、下半期がチェンチェン・ルーの『The Path』。どっちも米国外からやってきてNYCはブルックリンで活動している若手ヴァイブラフォン奏者ですね。

この二作のどっちかが今年のベストテン一位なのはもう間違いありませんが、しかしどちらとも日本語ではほぼまったく話題になっていません。こんなにもすぐれた宝石だというのに、どういうこっちゃ、ホンマ?

Google検索してもTwitter検索しても(日本語だと)CDを売る通販ショップ以外にはぼくの書いた文章しか出てこないっていうありさま。こんなことでいいのか?とマジでフンガイしちゃいます。もちろん市井の一介素人ブロガーがどんだけ声を大にしてもなかなか…っていうことではありますけれどもね。

そういえば、以前bunboniさんがディーノ・ディサンティアーゴ(カーボ・ヴェルデ/ポルトガル)関連で、こんなに上質な音楽があるにもかかわらず、いくら声を上げ続けてもまったく話題にすらならないのには、正直徒労感があると言っていたことがありました。

ぼくのばあいも、パトリシアとチェンチェンの記事で得た反応といえば、Instagramフレンドのkznr_tkst(hifi_take_one)さんがとてもいいとご自身の投稿で言ってくれたのだけ。ほんとうにこれが唯一なんです。もちろん両記事ともそれなりにアクセスがあって人気ランキングにも入ったんで、読まれてはいるのでしょうけれども、ちょっとさびしいねえ。

パトリシア・ブレナンのほうは、まだそれでも話題にならないのを納得できる面もあります。ちょっとジャズでもないような、独奏インプロ・ミュージックですからね。一般には「前衛」とのことばでくくられるような音楽性ですから、敬遠されがちっていうのはさもありなん。

もともと前衛即興なんかはキライで来たぼくなのに、いったいなぜ、どうして、パトリシアの『Maquishti』にだけはゾッコンなのか?っていうのは自分でも謎ですけれどもね。

でもわからないのは昨年デジタル・リリースされていたチェンチェン・ルーの『ザ・パス』のほうですよ。こっちは明快でとっつきやすいコンボ編成でのグルーヴィ&メロウなブラック・ジャズど真ん中ですからねえ。だれが聴いても楽しくノレるもので、この手の音楽は日本でも人気のはず。

それなのにチェンチェンが話題にならないのは、想像するにフィジカルCDがなかったというのが最大の理由かもしれません。昨秋のアルバム・リリース時にはダウンロードとストリーミングだけでしたから。日本人はまだCDが出ないと話題にしないひとが多いです。

特に月刊誌など音楽ジャーナリズムはとりあげない、デジタル・リリースだけだとガン無視ですからねえ(時代遅れだと思う)。ジャズ・フィールドで活動している評論家やライターのみなさんのなかで、紙でもWebでも、仕事でもプライヴェイトでも、チェンチェンの『ザ・パス』を話題にしたひとがいますか?だれもいない。

それでも今年八月にPヴァインがこれのCDを発売しました。日本盤ということで、だから本国盤しか買わないよっていうような、うん、ぼくもずっとそうだったんで気持ちはとてもよくわかりますが、でも日本盤CDが出たんだから多少音楽ジャーナリズムなんかはとりあげてくれてもいいんじゃないのでしょうか。

それにですね、チェンチェンみたいな音楽家のばあいは「本国」盤の意味がもはやよくわからないっていうか、Pヴァインのはあきらかに本国盤じゃないにしても、そもそも本国盤という発想が無意味になっている音楽家だなと思いますよ。

本人は台湾人で大学を卒業してからアメリカにわたって、その後ずっと同国で活動していますけれども、アルバム『ザ・パス』はアメリカでCD発売されていません。しかし台湾盤があるんですよ。こないだネットで調べていて台湾語で書かれた通販サイトを見つけました。とはいえそれだって本国盤と言えるのか?本人はアメリカにいるんですけど。

結局、台湾(盤はあるんだけど)なのかアメリカなのか、どっちでCDが出たら本国盤と言えるのか、チェンチェンのばあいはわかんないでしょ。パトリシア・ブレナンだってメキシコ人ですしね(でもアメリカのレーベルからCDとLPを出した)。

つまりですね、そんなふうになってきているいまのこの時代に、どこの国の盤か?本国盤はどれか?なんてことにこだわるのは無意味だろうと思いますよ。実情にそぐわないでしょう。だから、チェンチェンのばあいPヴァイン盤はともあれ、台湾盤を買えばいいのかもしれません。

さらに、チェンチェンの『ザ・パス』は、オフィシャルCDが本人の公式サイトで売られています。本人の公式サイトでの販売なんだから、本家盤というならこれ以上のものはないんじゃないですか。

下のほうへスクロールしていくと「BUY MY CD “THE PATH”」というのが出て、名前とか送付先とかの入力欄が出ます。英語でOK(サイト全体は台湾語とのバイリンガル)。

そうやって買えば、本家(本国)盤のチェンチェン『ザ・パス』CDが買えるんですから、CDがないと、とおっしゃるジャーナリズム関係以下大勢のみなさんも、それで買ってみて、ぜひとも聴いて、話題にしていただきたいなと、切に願います。

だぁ〜って、こんなにもグルーヴィでこんなにもカッコよくメロウな現代ブラック・ジャズって、ないんですから、チェンチェン・ルーの『ザ・パス』。

(written 2021.10.20)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?