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やや南部ふうのホンキー・トンク感 〜 ノラ・ジョーンズ『フィールズ・ライク・ホーム』

(4 min read)

Norah Jones / Feels Lke Home

ノラ・ジョーンズがいままでにリリースした全アルバムでいちばん好きなのは、二作目の『フィールズ・ライク・ホーム』(2004)。なぜかぼくのフィーリングにピタッとくるんですよね。

といってもこれは最近ノラをトータルでざっと聴きなおして発見したことであって、個人的には長年この歌手&ピアニストのことを「ふ〜ん」くらいにしか思っていなかったというのが事実。デビューした2002年というとジャズの最低迷期だったし、こちらも若く、まだトンがった音楽が好きだったので、ホテル・ラウンジのピアノ・バーでやっているみたいな新人のことはイマイチだったんです。

ごく最近ですよ、「ジャズ(的なもの)」がここまで大きなコンテンポラリー・ムーヴメントになって、もちろんヒップ・ホップ以後的な新感覚を備えた新世代ジャズ・ミュージシャンも、それと同時に復古的なレトロ・ジャジー・ポップスを志向する若手歌手たちも大きな流れになってきたのを、ぼくも認識するようになってから。

よくよくシーンをふりかえって考えてみたら、新世代ジャズとレトロ・ポップス志向の両方でノラが源流みたいなものをかたちづくっていたんだなあと、いまはじめてのように気づきはじめ、このジャズ・ミュージシャンの重要性と立ち位置をようやく理解するようになりました。

二作目『フィールズ・ライク・ホーム』は、基本デビュー作『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』(2002)の路線を継承しつつ、オシャレ感よりもややホンキー・トンク的っていうか、泥くさくファンキーでアーシーな感覚っていうか、ブルージー&南部的なフィールがわりとただよっていて、そんなせいで好みなのかもしれません。

ジャズに混ざるようにカントリー・ミュージック色も濃く出ていて、ここもデビュー作とはやや異なるテイストをかもしだす原因になっています。そういえば、7曲目「クリーピイン・イン」にはドリー・パートンが参加しています。ドリーのソロ・パートはなくコーラスですけれど、ギター・スタイルもふくめこの曲もはっきりしたカントリー・ナンバーです。

ゲスト参加のなかではリヴォン・ヘルム、ガース・ハドスン二名の元ザ・バンドの面々も目立ちます。特にガースでしょうね、2曲目「ワット・アム・アイ・トゥ・ユー」のハモンド・オルガンと6「ビー・ヒア・トゥ・ラヴ・ミー」でのアコーディオンは耳を惹くもの。

ことに6曲目でのアコーディオン・プレイは傑出していて、デビュー作にはなかった素朴で田舎ふうのケイジャン風味をノラの音楽につけくわえることに成功しています。アメリカ音楽におけるちょっぴり泥くさい南部テイストが大好きな人間にとっては格好の味つけで、この一曲での薄くしっかりただよう南部香のためだけにガースがプレイした意義は大きかったと言えるもの。

アルバム・ラスト13曲目「ドント・ミス・ユー・アット・オール」は、デューク・エリントンがピアノ独奏で弾いた1953年の「メランコリア」が原曲(アルバム『ピアノ・リフレクションズ』収録)で、そこにノラがオリジナルの歌詞をつけたもの。

前作のやはりラストにあったスタンダード「ザ・ニアネス・オヴ・ユー」と同一趣向のピアノ・バーでしめくくっているわけですが、本作の「ドント・ミス・ユー・アット・オール」のほうは、都会的で洒落たムードを維持しつつ孤独感や寂寥感も濃厚にただよう内容で、とても共感できて、いいですね。

(written 2021.12.28)


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