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お気に入りジャネット・エヴラの新作が出ました

(7 min read)

Janet Evra & Ptah Williams / New Friends Old Favorites: Live from the Sheldon

おととしbunboniさんのブログで知って以来すっかりお気に入りの歌手となっているジャネット・エヴラ。その2018年作『アスク・ハー・トゥ・ダンス』以来の新作が出ました。『ニュー・フレンズ・オールド・フェイヴァリッツ:ライヴ・フロム・ザ・シェルドン』(2021)。

だからちょっと書いておこうと思うんですが、なんかいか聴いて、なんというか、ちょっとねえ、あんまりおもしろいアルバムじゃないかもなあと感じています。ただのストレートなスタンダード・ジャズ・ヴォーカル作品になっていて、特にどこといって印象に残らない歌いっぷり。う〜ん…。

でも大のお気に入りの歌手になっているジャネットなので、惚れた弱み、とまではいかないんですけど、ちょっと軽く書いておいてもいいかなと思いなおし、キーボードを叩いています。上質な音楽には違いないし、なんでもないジャズ・ヴォーカルがお好きなかたがたには格好の推薦作でしょう。

今回のこの新作は、ジャネットとプター(プタハ)・ウィリアムズとの共作名義になっています。プターはPtahで、これはエジプトの古代神の名前だからたしかにプタハなんですけど、英語読みならプターじゃないのかなあ。ターかもしれません。本人や周囲がどう呼んでいるのか、知りたいところ。

そんなプター・ウィリアムズは米ミズーリ州セント・ルイスのローカル・ジャズ・シーンではなかなか知名度と評価のあるジャズ・ピアニストらしく、英国出身のジャネットも渡米後はセント・ルイスを拠点にしているというわけで、共演が実現したのでしょう。

アルバム題にある「ニュー・フレンズ」とは、だからプター・ウィリアムズとそのバンドという意味ですかね。「オールド・フェイヴァリッツ」は古いスタンダード、名曲選ということで、それでこんな内容になっているわけですね。全曲スタンダードばかりとりあげていて、今作のための新曲オリジナルはありません。

それから「ライヴ・フロム・ザ・シェルドン」との副題がありますが、シェルドンとはセント・ルイスにある有名なコンサート・ホールの名前ですね。そこでライヴ収録されたというわけでしょう。たしかにトラックによってはかすかに観客のものらしき拍手の音が混じっていたりします。ほんとうにかすかにだけど。

それにしては音楽のサウンドにライヴ感がまったくと言っていいほどありませんが、練り込まれリハーサルも綿密に積んだからそう聴こえるだけなのかもしれません。ライヴ収録だったならもうちょっとそれっぽい雰囲気を出したほうがよかったのでは?という気がしますけれども。これじゃあスタジオ・セッションと変わらない感触ですね。

書きましたように、スタンダードの数々を、それも特にどうといった工夫も凝った解釈もなしに淡々とやっているだけなんで、だからどうってことないアルバムではあるんですが、それでも特にプターのピアノはかなりうまくて聴けるし、バンドも熟練の味わいでこなれています。ジャネットはやはりベースを弾きながら歌っているはず。

肝心のジャネットの歌いぶりは、なんというか、こう〜、前作では滑舌と歯切れのよい明瞭な発音が大きな特色だったのに、それが今作では消えちゃっていて、きわめてフツーのジャズ・ヴォーカリストになってしまっているのがねえ、かなり残念なような。もっとハキハキ歌えるひとだったんだけどなぁ、オリジナル曲とカヴァーの違いかなぁ、どうなんでしょう?

とりあげられている曲のほとんどは多くのジャズ歌手がよくやるものばかりですが、なかに二曲だけ、ちょっとオッ!と思えるものが混じっているのが目を引きます。どっちも有名スタンダードになってはいますが、3曲目の「ウィル・ユー・スティル・ラヴ・ミー・トゥモロウ」(キャロル・キング)と5曲目の「ハレルヤ・アイ・ラヴ・ハー・ソー」(レイ・チャールズ)。

もちろんジャネットは女性歌手だから、後者のほうは「ハレルヤ・アイ・ラヴ・ヒム・ソー」になっていますけどね。ストレート・ジャズに解釈してやるレイもなかなかです。もっといいのが、シレルズ・ヴァージョンがオリジナルのキャロル・キング「ウィル・ユー・スティル・ラヴ・ミー・トゥモロウ」。ジャネットらは完璧なボサ・ノーヴァ・アレンジをほどこしているんですよね。

ふりかえってみれば前作でのジャネットは、オリジナル曲にほのかなブラジリアン・テイストがただよっているのも美点でしたからね。今作でのこの「ウィル・ユー・スティル・ラヴ・ミー・トゥモロウ」で、それをちょっと思い出したような感じです。バンドのノリもグッド。

やや意外だったのは「アイ・ウィッシュ・ユー・ラヴ」として英語圏で知られスタンダードになっている6曲目「Que Reste-T’il」を、オリジナルのフランス語のヴァースから歌い、リフレインになっても最後までフランス語のままでカヴァーしていること。英語圏の歌手はほとんど英語詞で歌う曲ですからねえ。これもちょっぴりかすかにボッサ・テイストが効いています。

正直言ってしまって、2018年の前作『アスク・ハー・トゥ・ダンス』のあの清涼感には遠く及ばない凡作としか思えないこの『ニュー・フレンズ・オールド・フェイヴァリッツ』ですけれども、これでまたジャネットのファンができて、前作を聴くひとが増えたらいいなあ〜っていう気持ちはあります。なんたって前作はあんないい作品だったのに、ほとんど再生されていないんですよ。

(written 2021.5.30)

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