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坂本昌之アレンジの極意を、由紀さおり「ウナ・セラ・ディ東京」に聴く

(3 min read)

由紀さおり / ウナ・セラ・ディ東京

日本歌謡界の至宝アレンジャー、坂本昌之の最高傑作は、いまのところ由紀さおり『VOICE II』(2015)2曲目の「ウナ・セラ・ディ東京」に違いありません(私見)。岩谷時子と宮川泰が書きザ・ピーナッツが1964年に歌ったのが初演。

坂本+さおりヴァージョンの「ウナ・セラ・ディ東京」は、ゆったりしたテンポのボレーロ・ビートに乗るオクターヴ奏法のギター・イントロではじまります。コントラバスによるオブリガートがややシンコペイトしているのが印象的。リズムは主にコンガ。うっすらドラムスとピアノ。

ギターとピアノのユニゾンによる短い無伴奏デュオ・インタールードに続きさおりのヴォーカル・パートにくると、ピアノを残しほかの楽器がさっとはけます。ピアノ独奏で八小節だけ静かに歌われると、今度はピアノとベースのユニゾン・リフが入りアンサンブルを導くという絶妙な出し入れ。

続く八小節のAメロを歌い終わり、軽い四連符を叩くリフに続いてサビに入ると、おそらくさおりの多重録音によるハモリ・ヴォーカルになっているのもみごとにきれい。その「あのひとはもう、わたしのことを、忘れたかしら、とてもさみしい」の終わりでパッと伴奏が全休止したその刹那、コンガ・ロール、続いてアンサンブルによるやや強め三連符バン、バン、バン。

サビでは全体的にハモリ・ヴォーカルですが、その終盤の伴奏が止む「とても〜、さみしい」部だけソロになっているのもデリケートな押し引きですね。続くコーラス・ラストの八小節でだけバック・コーラス(も多重録音と思われる)が仄かな色どりを添えています。

このあたりまでのシルク・タッチなサウンド・メイクとヴォーカルで、聴き手はもうすっかり溶けてしまいます。間奏のギター・ソロもイントロと同じくオクターヴ奏法でやわらかく。

やはり四連符リフに続きそのまま2コーラス目はサビから入り、1コーラス目と同じパターンをなぞり、ラスト八小節(ピアノ・オブリが洒落ている)最終部の「ウナ・セラ・ディ東京」を二回リピート。アウトロはやはりオクターヴ奏法ギター。

使われている楽器はピアノ、ギター、ベース、ドラムス、コンガ。これだけ。ストリングスもホーンズもなし。必要最小編成によるミニマム・サウンドのデリケートなかけひきで最大の効果を生む、坂本昌之マジックがここにあります。

(written 2022.1.24)

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