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なんでもないハード・バップですが 〜 ハンク・モブリー

(4 min read)

Hank Mobley / Soul Station

なぜだかここのところときどき聴いているハンク・モブリーの1960年作『ソウル・ステイション』。なんでもないハード・バップですが、そういうのがとっても聴きたい気分なときもあります。このアルバムはどうやらまだ書いていなかったようですし。

一般的にはモブリーでいちばんのアルバムということになっているらしく、なんでもソニー・ロリンズの『サクソフォン・コロッサス』、ジョン・コルトレインの『ジャイアント・ステップス』に相当する位置づけのモブリー作品らしいです。

「なんでも」「らしい」とか書いているのは、つまり前から言いますようにぼくは長年モブリーをちゃんと聴いてこなかったんですね。軽視していたというか、マイルズ・デイヴィス・バンド時代があるもんで、前任がトレイン、後任が(実質的に)ウェイン・ショーターですから、そりゃあ分が悪かった。

それなもんでモブリーのリーダー作を積極的に聴いてみようという気分に従来はあまりなれませんでした。でも最近トンがった激烈なものより丸くておだやかな音楽が好きになってきましたから、マイルズ作品でもモブリー全面参加のたとえば『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』なんかが沁みるようになってきましたし。

歳をとって嗜好が変化し、徐々にモブリーみたいな持ち味のジャズ・サックスもわりといいなあと感じるようになってきたってわけで、そんなところで『ソウル・ステイション』を聴いてみたら、あらとってもいいじゃないって、そう納得しましたきょうこのごろ。

オープニングの「Remember」や5曲目のアルバム・タイトル・チューンに象徴されるような4/4拍子のストレート・ジャズも、変哲ないけれど、とっても聴きやすくていいし、さらに個人的にもっと気に入っているのはテーマ演奏部でラテン・ビートが使ってあるもの。

とか、リズムに工夫があってブレイクやストップ・タイムの活用が(テーマ部だけなんですけど)聴けるとか、そういうのは、標準的なハード・バップでも当時あたりまえではありましたけど、聴けばやっぱりいいなあと思います。

たとえば2「This I Dig of You」、4「Split Feelin’s」はラテン・ビートが使ってあるし(インプロ・ソロ・パートではストレートな4ビートですけどね)、6「If I Should Lose You」はストップ・タイムが駆使されています。アルバム収録曲の半数がこんな感じですから。

特に「If I Should Lose You」なんて、もとは悲痛なバラード、というかトーチ・ソングで、止まりそうなテンポで演奏されるかなり沈鬱なフィーリングの曲でした。それをそのまま活かすようなほかのミュージシャンによるヴァージョンがたくさんあって、ぼくも好きでしたし、こういう曲なんだと思っていましたからね。

それをとりあげた本作でのモブリーらは、リズム面での工夫をほどこすことでフィーリングを中和し、そこそこおだやかでなごやかなムードのレンディションにしあげているというのが、いまのぼくの気分にはちょうどよくまろやかに響きます。

(written 2023.5.25)

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