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ひたすら楽しいマヌーシュ・スウィング 〜 ジャズ・シガーノ・キンテート&ヤマンドゥ・コスタ

(4 min read)

Jazz Cigano Quinteto e Yamandu Costa

新作を次々リリースするペースが速すぎるヤマンドゥ・コスタ(七弦ギター、Br)で、しかもフィジカル完無視状態なので、もはやだれもなにも言わなくなりましたが、数日前にまたまた出ました、『Jazz Cigano Quinteto e Yamandu Costa』(2022)。タイトルどおりジャズ・シガーノ・キンテートとの共演。シガーノが中心で、ヤマンドゥは客演。

ジャズ・シガーノ・キンテートのほうはちょっと説明しておいたほうがいいでしょうか。バンド名そのままのマヌーシュ・スウィング、それも1930年代のジャンゴ・ラインハルトがやったそれを忠実に継承再現しているという古典派で、ブラジルはクリチーバの五人組(ヴァイオリン、ギター、ギター、ベース、ドラムス)。

日本ではまったく無名の存在ですけど(カナで検索したら、ほんとうに一つも出なかった)2010年にデビュー・アルバムをリリースしているので、キャリアはあります。そして今回はじめて知りましたが、その当時からヤマンドゥとは共演を重ねてきているようで、浅いおつきあいじゃないみたいです。

フル・アルバムというかたちでこの両者の共演が記録されてみんなが聴けるようになったのは今回が初ということですね。ヤマンドゥがマヌーシュ・ジャズ(ジプシー・スウィング)を演奏するというのはやや意外でしたが、なんでもできるヴァーサタイルさを身につけているんでしょう。

七弦ナイロン・ギターをどこで弾いているのかわかりにくいと思うほどシガーノのバンド・アンサンブルにきれいに溶け込み一体化しているヤマンドゥ。なんかピックではじくスティール弦の音しか聴こえないじゃん?ひょっとして持ち替え?とか正直思ったりもしますが(よく聴くとちゃんとそこにいる)、このアルバムはあくまでシガーノのものであって、ヤマンドゥは目立たない脇役ですね。

ジャンゴが創始者のこうしたジャズ・サウンドが個人的にはいまだ大好物で、こうやって現代ブラジルのコンテンポラリー・ミュージックとしてもちゃんと生きているのを確認できたのは大きなよろこび。メンバーやヤマンドゥの自作にまじり、ジャンゴの曲だってやっているし、どこまでも伝統に敬意を払って端正な姿勢をくずさないあたりにぼくだったら好感を持ちますね。

それになんたって聴けばめっちゃ楽しいもんねえ(ぼくは)。なんだかちょっぴり正統派ジャズでもない、ちょっとだけはみ出したような雰囲気もジャンゴの音楽には感じとれて、それはアメリカン・スタンダードなんかをやっているときでもそうでした。その味の正体がなんなのか?いまだよくわからないんですが、なんとも惹きつけられる不思議なチャームがあります。

シガーノのメンバーも(世界も)ジャンゴのそんな部分に魅力を感じて、21世紀になってこうした音楽をやっているんじゃないでしょうか。アクースティック・ギターで軽快にざくざくリズムを刻んでいるのを耳にするだけで快感で、それに乗って別なギターリストがシングル・トーンでメロディを弾くストリング・バンド・サウンドこそこの手の音楽の真骨頂。

また、小規模でこじんまりとまとまったサロン・ミュージックふうなおもむきは、そうした傾向の音楽が再流行しているここ10年ほどの世界のトレンドに合致もしているもので、もちろんシガーノのメンバーは流行ではなく信念でやっているだけですが、それがたまたま時流に乗ったという面がありますね。

(written 2022.8.1)

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