見出し画像

レゲエでモンク 〜 モンティ・アレクサンダー

(4 min read)

Monty Alexander / Wareika Hill Rastamonk Vibrations

bunboni さんに教えていただきました。

ジャズ・ピアニスト、モンティ・アレクサンダーはジャマイカ生まれ。だからなのか、事情は上掲 bunboni さんの記事でくわしく触れられてあるのでお読みいただくとして、2019年作『ワレイカ・ヒル・ラスタモンク・ヴァイブレイションズ』がとても楽しいですよ。ぼく的には傑作と呼びたいほど痛快な内容で、なんとセロニアス・モンクの楽曲をレゲエ・アレンジでやっているんですね。本当に楽しいんです。

聴いてみたら、モンク楽曲とレゲエ・リズムの相性のよさに驚きますね。モンクのコンポジションってもとからちょっとクスッと微笑むようなチャーミングなユーモア感覚があったと思うんですけど、レゲエに解釈することでそれがいっそう際立っているんですね。アルバムではオープニングとクローザーにちょっとしたトラックが置かれていますが、冒頭それに続く「ミステリオーソ」から愉快です。

このアルバムでは、メンバーはたぶんピアノ、サックス、ギター、ベース、ドラムス、パーカッションでしょうか、なかでもぼくはモンティ自身の弾くピアノがたいへんに気に入りました。ふだんはわりと華麗に弾きまくるタイプのピアニストですけれど、ここではモンクをやっているからなのか、モンク(やその師匠のデューク・エリントン)の打鍵スタイルに寄せていっているような感じですよね。

前半、「ミステリオーソ」「ナッティ」「バイ・ヤ」など有名曲が続きますが、どれもテーマはサックスとピアノのユニゾンで表現されています。リズムがレゲエなおかげで、モンクの書いたメロディの持つ愛らしさ、近寄りやすい親近感、キュートなチャーミングさが際立っているなと聴こえるんです。レゲエのリズム・スタイルって、たぶんもとからそういった身近なフレンドリーさをまとっていると思いますが、いっぽうでモンクの楽曲はどっちかというと高踏的で近寄りがたいと思われてきたんじゃないですか。

ところがモンティのこのアルバムで聴けば、とりあげられているモンクのどの曲もまるでやさしくほほえんでいるかのような、気のおけない友人とリビングでコーヒーでも飲みながら雑談しているような、そんな親しみやすい日常の空気感をまとっているなと思うんですね。ソロでも、サックスのそれはそうでもないかもですが、モンティ自身のピアノ・ソロでは似たようなフレンドリーなタッチというか表現を、特にブロック・コード弾きで、していますよね。

ぼくだってモンクの曲にはやや気高いオーラみたいなものをむかしから感じとっていて、だからこそ好きだというのがあったんですけど、モンティのやるレゲエ・ヴァージョンでなら本当に身近な友人といった、そんな音楽性をモンクの曲に感じて、認識を新たにしました。しかも演奏はなんだか文句なしに楽しいでしょう。メインストリームな4ビート・パートがまじっている曲もありますが、それもユーモラスで親しみやすく感じるから不思議です。

アルバム後半の「ブリリアント・コーナーズ」「ウェル・ユー・ニードゥント」「ベムシャ・スウィング」など、いずれも名の知れたスタンダードになっていますが、やはりレゲエにすればだいぶん味わいが違います。ユニークなのはモンクの曲だからそうですけど、ユーモラスでフレンドリーに化けていて、キュートで愛らしい表情すらモンティは引き出していますよね。

ピアノのタッチもイキイキと躍動しているし、このアルバムはジャズ・ファン、モンク好きといった方向よりも、むしろいままであまりジャズに親しんでいなかった、モダン・ジャズ楽曲はとっつきにくいと敬遠していた、そんなひとたちにも歓迎されそうな、ポップな表情を見せているなと思います。

(written 2020.4.6)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?