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切なく甘くノスタルジックなレトロ・ポップでつづるラヴ・ソング 〜 サラ・カン

(3 min read)

Sarah Kang / Hopeless Romantic, Pt.1

以前一度書いたわりあい好きなレトロ・ジャズ歌手、サラ・カン(韓国プサン生まれLA育ち現在の拠点はNYC)の新作『Hopeless Romantic, Pt.1』(2023)が出ましたが、これアルバムの前半というか一部で、続きのPt.2がそのうち出て完結するってことでしょうか。本人が “first half” とかってインスタで言っていたような。

とりあえずいまはPt.1だけ聴ける状態なのでそれを書いておきます。もう待てないんだもんね。それくらいチャーミングだし、これはこれでちゃんとバランスのとれた完結品のような趣をしています。

1930〜50年代ごろのUSアメリカにたくさんあったキュートでジャジーなポップスへの眼差しがはっきりしていて、そういう世界への憧憬をはっきり示す歌手やソングライターはその後も現在までときどき出現してきましたよね。近年のレトロ・ブームはそれが大きな潮流として顕出しムーヴメントになっているというわけです。

最大の共通項は「非ロック」「前ロック」ってことで、サラ・カンの音楽もまた同じ。今回はラスト5「It’s You I Like」だけがフレッド・ロジャーズのカヴァーで、それ以外は自作。サラは歌えるだけでなく、曲を書きアレンジ/プロデュースし楽器もやれる音楽家なんで、やはりそのようにつくりあげていると思います。

ところでそのフレッド・ロジャーズの「イッツ・ユー・アイ・ライク」をサラがカヴァーしているのがクラシカルで、最高にすんばらしいんじゃないかとぼくは思います。同じくニュー・ヨーク在住の日本人ピアニスト、泉川貴広が伴奏をつとめているデュオなんですけど、なんともかわいらしくチャーミングで、大好き。あなたのなにからなにまでぜんぶ好きっていう歌詞も好き。

これがラストに置かれていることには明確なプロデュース意図を感じますし、バランスがとれている、構成が練られているとわかるものですよ。それくらいこのEPのクローザーとしてはこの上なくピッタリ。デジタルなリズム伴奏がついている4曲目までからのあざやかな流れになっています。

ピアノやアクースティック・ギターとDAWビート中心のシンプルなサウンドを軸に、控えめのトロンボーンやハーモニカ、チェロなどを効果的に配した1〜4までは、あくまで切ないフィールの自作の歌を聴かせよう、それをきわだたせようという音づくりになっています。やや甘めのサラの声は、こうしたノスタルジアをつづるのに最適ですね。

(written 2023.7.23)

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