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ジャズのレトロ・トレンドはどういうわけなの? 〜 スピークイージー・ストリーツ

(5 min read)

Speakeasy Streets / Back Alley Beats

萩原健太さんに教わりました。

ニュー・ヨークのブルックリンを拠点に、フランス、チリ、イスラエル、南アフリカ、そしてアメリカという多国籍メンバーが集まって結成したバンドらしいスピークイージー・ストリーツ。そのデビュー・アルバムですかね、『バック・アリー・ビーツ』(2021)は、往年のジプシー・スウィングを基調としながらも、そこにヒップ・ホップ感覚のビート・メイクとパンクなラップをまぶしたっていうような内容。

ということでバンド自身はその音楽を、ジプシー・スウィング+ヒップ・ホップの合体で「ジプ・ホップ」と独自に名付けているのだとか。とはいえですね、ぼくが聴いたところ、どちらの風味もさほど強くなく。だってジャンゴ・ラインハルトらフランス・ホット・クラブ五重奏団はストリング・バンドだったけど、スピークイージー・ストリーツは管楽器主体で、印象がまったく違います。

ヒップ・ホップなビート感覚だって、あまりないんじゃないですか。このバンドは1930年代後半〜40年代のジャズ・ビッグ・バンドをそのまま踏襲し、そこにちょこっとラップ(はヒップ・ホップの重要エレメントではあるけれど)をまぶしたっていう、そういったものじゃないかと個人的には感じますね。

ビートの感覚だって往年のフィーリングそのままっていう感じで、そこにラップが乗っているのは新鮮かもしれないですけど(1930年代にはジャズにラップをくっつける発想はなかった)、音楽そのものはレトロ一色な感じがします。バルカン・ビート風味もちょっと感じますかね。

でもそのレトロなフィーリングがなかなかいいんじゃないかなと思うんですよね。スクィーレル・ナット・ジッパーズほか、ディキシー/スウィング時代のヴィンテージ・ジャズを現代に再現するレトロ・バンドやミュージシャンのことがぼくは大好きですからね。ジャネット・クラインとかダヴィーナ&ザ・ヴァガボンズとかもですね。

そういうたぐいのミュージシャンたちをぐるっと見まわしてみると、どうも21世紀に入ったあたりからなのか、もっと前、1990年代のネオ・アクースティック/スウィング・リバイバルあたりからなのか、レトロ・ムーヴメントがしっかりしたかたちとしてトレンドとなってシーンにどっかりと存在してきているようにみえるんですよね。

こういったミュージシャンたちのそんなレトロ・ムーヴメントをどうとらえたらいいのか、楽しんでいるだけなんであまりつきつめて考えてみたことがないんですけれども、一度死んだかもしれないと言われていた(のは事実誤認だと思うけど)ジャズが、近年新しいかたちになってよみがえってきているようなことや、あるいはSNS時代になってそれを舞台にブルー・ノート・レーベルを中心にかつての古典作が復興してふたたび聴かれるようになったり、そんなことになっている21世紀の風景と決して無関係じゃないだろうなあという気がしています。

だからじゃあなんなの?レトロ・ムーヴメント、1930年代あたりのスウィング・ジャズとかもっと前からのスタイルもふくめ往年のヴィンテージ・サウンドを現代に再演しているミュージシャンたちの活動が活発になっているのはどうして?どういう時空の歪みかた?と問われても、いまのところぼくは答えを持っていません。

ただたんに、聴いたら楽しいなぁ〜って感じて好きなだけなんで。

※ きょうとりあげたこのバンドの名前になっている speak easy とは、かつてアメリカの禁酒法時代(1920~33)に存在した、秘密酒場のことです。

(written 2021.4.25)

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