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ブリュッセルの多様なグナーワ 〜 ジョラ

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Jola - Hidden Gnawa Music in Brussels

ベルギーのブリュッセルはヨーロッパにおけるグナーワの中心地になっているらしく、モロッコから現在40名ほどのグナーワ音楽家が移住しているんだそうです。ジョラ(Jola)は、そんなブリュッセルで活動するグナーワ・グループのひとつなんでしょうか、その2020年発売作『Jola - Hidden Gnawa Music in Brussels』を聴きました。なかなかディープでいいですよ。ブリュッセルのグナーワ集団を録音した世界初のアルバムだとのこと。

グナーワ・ミュージックというと、ゲンブリ(三弦のベース的なもの)、カルカベ(鉄製カスタネット)、手拍子、(男声)ヴォーカルのコール&レスポンス、で構成されるのが標準的なフォーマットだという考えがあると思うんですが、このアルバム『ヒッドゥン・グナーワ・ミュージック』では、たしかにそういったものが中心になっているとはいえ、必ずしもそれに沿っていないものだってたくさん収録されています。

モロッコのであれ、グナーワの多様な姿のうちぼくが知っているものはCDなどで聴いてきたごく一部なので、実際にはいろんなものがあるんだろうと想像はできますね。たとえばこのアルバム1曲目の楽器伴奏はゲンブリ一台のみ。それと手拍子とヴォーカルだけで構成されています。それがしかしけっこうコクと深みのある味わいで、なかなかいいんですね。

2曲目は、手拍子のエフェクトも入るとはいえ、ほぼゲンブリ一台の独奏です。ゲンブリ独奏というのはぼくはモロッコのグナーワで聴いたことがなかったんじゃないかと思いますね。このアルバムでもインタールード的な短い演奏で、アルバムのちょっとしたアクセントになっているだけですけれども。本場モロッコのグナーワにもゲンブリ独奏があるのかもしれません。

もっと変わり種は3曲目。これは太鼓アンサンブルだけの演奏なんですね。トゥバールという両面太鼓を使っているそうで、太鼓だけのアンサンブルがグナーワ・ミュージックのなかにあるとは、ぼくは無知にしてぜんぜん知らず、かなり意外な感じがしました。上でも触れましたが、実際にはグナーワのなかにもさまざまな演奏があるのかもしれないですね。きっとそうでしょう。

4曲目も、これはカルカベ・アンサンブルだけの伴奏に乗せてヴォーカリストが歌うといったもので、ホントこのアルバムにはいろんなスタイルのグナーワがあって、たぶん日本のぼくなど現場外の人間にはあまり知られていないというだけのことなんでしょうけどね。

またこれもちょっとめずらしいのかもと思ったのは10曲目。ここでは女声がメイン・ヴォーカルなんですね。ゲンブリ+カルカベ+手拍子といった伴奏編成は標準的ですが、女声がリードをとって男声コーラスがレスポンスするグナーワというのはぼくは聴いたことなかったです。この女声はちょっと西アフリカ〜トゥアレグ的なフィーリングを持っていますね。そんな発声です。

と、ここまでは、このアルバムで聴けるぼく個人はいままで知らなかったスタイルのグナーワ・ミュージックのことを書いてきましたが、これら以外はきわめてスタンダードなスタイルで演唱しているものばかりです。特にいいな、アルバムのクライマックスかなと思えるのは中盤6〜8曲目あたりですが、ディープさ、コクのあるエグ味などにおいてモロッコのルーツ・グナーワになんら劣るものではなく、決して外部向けに観光商品化したものでもないし、ナマの、現場の、そのままのグナーワの姿を、ブリュッセルにおいてとらえたものだと言えましょう。

(written 2020.8.4)


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