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冬にぴったりな『コルトレイン』

John Coltrane / Coltrane (1957)

(6 min read)

「冬にぴったり」と言いましても、この文章をブログに上げるのはたぶん春になってしまいます。でも思い出して聴きなおしたのは二月だったんで、なんとか許してください。

1957年録音・発売のジョン・コルトレインのプレスティジ盤『コルトレイン』。これがソロ・デビュー作ですが、57年ということで、すでにトレインは立派に成長していると言っていいと思います。もちろんその後のアトランティック時代やインパルス時代と比べることはできないのですが、なかなかどうしてこのアルバムもいいとぼくは思いますね。ぼくだけでなく、あんがいファンの多い一枚じゃないでしょうか。

マイルズ・デイヴィスがファースト・クインテットを解散したのが1957年の春。そのときトレインも解雇されています。トレインのばあいドラッグ中毒癖もあったということで、それもボスの気に入らないところだったかもしれません。それでトレインは故郷フィラデルフィアへ一時戻り、薬を抜いてから五月にふたたびニュー・ヨーク・シティを再訪。それで同月末のファースト・リーダー録音となったんですね。

1957年のトレインといえばセロニアス・モンクのバンドでの修行が知られていますが、トレインがモンク・コンボの一員となったのは同年夏ごろ。ですからプレスティジ盤『コルトレイン』はその前に収録されたリーダー作品ということになります。その後モンクのもとでメキメキ実力を上げ、58年からはマイルズ・バンドでもリーダーでもめざましい活躍をみせるようになりました。57年の『コルトレイン』はそれに一歩及ばないものの、すでに充実期の入り口に立っているとしていいアルバムでしょうね。

1957年のアルバム『コルトレイン』は基本コルトレインのワン・ホーン・カルテットですが、全六曲のうち三曲でほかの二管が参加して三管編成になっています。1「バカイ」、4「ストレイト・ストリート」、6「クローニック・ブルーズ」。だれがホーン・アンサンブルを書いたのかちょっとわかりませんが、なかなか分厚い響きで、ビッグ・アンサンブル好きのぼくにはもってこいのサウンドですね。

特にエキゾティックな響きを持つ1曲目「バカイ」なんか、とっても魅惑的です。作者はトレインの友人カルヴィン・マッシー。バカイとはバングラデシュの地名ですが、エキゾティックな旋律を持っていることとやはりちょっと関係があるんでしょうね。といってもリズムはアフロ・キューバンですけれども。サビに入るとやっぱり4/4拍子のストレート・ジャズになってしまいます。この曲ではトレインのソロもいいんですが、サヒブ・シハブのバリトン・サックスの響きもエキゾティックな素材によく合致していて、好きですね。

サヒブ・シハブのバリトンはこのアルバムでのひとつの特色になっていて、ある意味カラーを決めていると言えるのかもしれません。たった三曲しか参加していないのは残念。そもそも全六曲を三曲の三管編成と一曲の二管と二曲のワン・ホーンに割りふるという発想はだれのものだったんでしょう?プレスティジのボブ・ワインストック?トレインはまだ初リーダー作ですからそこまで発言力大きくなかったでしょうしねえ。

三管編成ものではアルバム・ラストの「クローニック・ブルーズ」もかなりいいです。この曲では各人のソロ内容が充実しているんですね。やはり素材がシンプルな定型12小節ブルーズだからやりやすかったという面があったかもしれませんが、サヒブ・シハブのソロもトレインのソロも極上です。特に二番手トレインのソロがとても聴かせる充実ぶりで、このアルバムにおける主役のソロのなかでは二番目の出来じゃないかと思います。

じゃあ一番の出来はどれか?というと、なんといっても2曲目の「コートにすみれを」。こ〜れは!もう絶品じゃないですか。マイルズのファースト・クインテットではリリカルなバラードでほとんど吹かせてもらえなかったトレインですが、1957年の5月ともなればここまで立派になっていたわけです。マット・デニスの書いた美しいメロディをこれでもかというほどきれいで抒情的につづるこのテナー・サックスには降参です。

そもそもこの「コートにすみれを」ではイントロを弾くレッド・ガーランドも文句なしですし、それに続いてトレインが出たら音色にも惚れ惚れしちゃうし、間奏のピアノ・ソロがまたいいしで、この曲のすべての器楽演奏ヴァージョンのなかでも二番目の出来になったと思います。一番はこの前年1956年録音・発売の『ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ』ヴァージョン。2曲目です。

で、ぼくは前から思っているんですけど、このズート・シムズ・ヴァージョンは1956年にレコードが出ていますから、57年の5月にスタジオ録音に臨んだトレインらだって聴いていたんじゃないかと。どうです?間違いないですよね。だってなにからなにまであまりにもそっくりでしょう。トレインらもズート・シムズがきれいに吹くこの「コートにすみれを」を聴いて、あ、これはいいなあ、自分も同じテナー・サックスだし、ちょっとやってみたい!と考えたに違いないと思うんです。

それでズート・シムズ・ヴァージョンを意識しつつトレインらも「コートにすみれを」をやって、それでこんなできばえになったんじゃないかと推測しているんですね。曲全体の演奏構成、調子、リリカルなピアノ・イントロに続きテナー・サックスがワン・コーラス吹いてそのまままたピアノ・ソロ、が終わったらサックスがブワブワ〜ッと入ってくるとか、どう考えてもトレインはズートを参考にしているんでしょう。

(written 2020.3.10)

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