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知世の「小麦色のマーメイド」が好き 〜『恋愛小説 3』

(5 min read)

松田聖子、原田知世 / 小麦色のマーメイド

昨2020年10月の発売以来ずっとよく聴いている原田知世の『恋愛小説 3 〜 You & Me』。このカヴァー・アルバムのなかでいちばん気に入っているのは、3曲目の「小麦色のマーメイド」なんですよね。歌詞が松本隆、曲が呉田軽穂(=松任谷由美)。松田聖子が1982年に歌ったおなじみの歌で、いままで、知世以前にカヴァーしている歌手も多いですね。

それで知世の「小麦色のマーメイド」は自分の夢にもよく出てくるし、朝起きたとき自動脳内再生されていることも多く、だからベッドから出てすぐ聴いたりもよくするんですけど、これ、聖子のオリジナル・ヴァージョンよりもずっといいんじゃないかなというのが正直な感想です。上のリンクのSpotifyプレイリストで二つを並べておきましたので、ぜひ聴き比べてみてください。

いまのぼくのフィーリングにピッタリだということなんですけど、伊藤ゴローのサウンド・メイクも現代的っていうか、2020年的コンテンポラリーネスを発揮していると感じるんですね。聴き比べれば、聖子ヴァージョンは時代を感じるサウンドだろうかなあ、と思わないでもないです。

聖子ヴァージョンは1982年ですからね、聴けばおわかりのように当時のいかにもなフュージョン・サウンドで、実際その界隈のミュージシャンたちが演奏したんじゃないかと思います。アレンジは松任谷正隆。82年という時代を強く意識したジャズ・フュージョン/シティ・ポップな音に仕上がっているんじゃないでしょうか。

これはこれでいま聴いても悪くないっていうか、上質のワン・トラックになっているなと思います。1982年当時だったらこれ以上は求むべくもないっていう、そんなサウンドじゃないでしょうか。聖子のヴォーカルも、正直言ってぼくは苦手なんですけど、でもこれはじゅうぶんチャーミングなものでしょう。

いっぽう、昨年リリースされた知世ヴァージョンの「小麦色のマーメイド」のサウンドは、ちょっとクラシカルなテイストが強いです。アレンジは伊藤ゴロー。ストリングス、っていうかこれはたぶん弦楽四重奏かな、それをメインに据えた落ち着いたできあがりの音です。これも時代的っていうか、2020年代に即した同時代サウンドじゃないかと思うんですね。

だから、いまから数十年後には聖子ヴァージョンも知世ヴァージョンも古いって言われることになるかもしれないです。いまは2021年なんで、知世ヴァージョンのほうがしっくり来る、いまの時代のぼくのフィーリングにぴったり合っている、という気がするだけですね。しばらくのあいだはこっちの知世のヴァージョンでOKじゃないでしょうか。

個人的に最も大きなことは歌手の発声と歌いかたですね。聖子がダメっていうんじゃありませんよ、個人的にはこの舌足らずな感じがやや苦手なだけで。比べて知世、いまの知世の声はややかすれたようなハスキーさで、成熟と落ち着き感を強くただよわせるヴォーカルじゃないでしょうか。ややキーも低めのこの知世ヴォイスがぼくは大好きなんですよね。

「小麦色のマーメイド」という曲の持つ雰囲気にピッタリ似合っているのが、いまの知世の声だっていうことで、若年のかわいらしさをそのまま保ったまま大人になって深みや落ち着きを獲得したこの発声や歌いかたがほんとうに気に入っているということなんです。声の色っていうかトーンも、聖子のそれよりぼくはずっと好きですね。

ストリング・カルテットを中心とする伊藤ゴローの極上のサウンド・メイクと、落ち着いたハスキーな知世のヴォーカルで、「小麦色のマーメイド」という曲が2021年に軽やかによみがえったんだという気がします。

(written 2021.1.7)

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