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フェイムの「I’d Rather Go Blind」でスペンサー・ウィギンズはぼくにとって永遠となった

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Spencer Wiggins / I’d Rather Go Blind

ディープ・ソウル歌手、スペンサー・ウィギンズの訃報に接し、それじたいどうこうっていうより、フェイムに残した超絶名唱「I’d Rather Go Blind」のことを思い出していました。あれはすごかった。

ウィギンズというと通常みなさんにはゴールドワックスということになるでしょうし、それはぼくにもよく理解できること。個人的にはこの歌手の名前をずっと知らずにきて、そもそもディープ・ソウルの世界にはうとかったんですが、フェイムの「I’d Rather Go Blind」が大きな衝撃だったのにはきっかけがありました。

1990年代後半にやっていたパソコン通信の仲間でナカヲさんという熱心なソウル・マニアが大阪にいらっしゃいました。7インチをどんどん追っかけてコレクトしていて、LPにもCDにもなっていないすばらしいところをCD-Rに焼いては周囲に無料頒布してくださっていたんです。

あるときナカヲさんから届いたそんなCD-Rの1曲目がスペンサー・ウィギンズのフェイム録音「I’d Rather Go Blind」でした。1990年代だとウィギンズだけでなくフェイムはまったく復刻されていなかったし、ぼくなんかそのときはじめてこの歌手の名前を見ましたから。

聴いてみてぶっ飛んだんですよね。この話、以前もくわしく書きましたけど。こんな歌手がいるのかと、正直いって強い雷撃に打たれたようなものでした。一発で「I’d Rather Go Blind」という曲と歌手に惚れ、ぼくのなかでスペンサー・ウィギンズは永遠の名前となりました。90年代末ごろの話。

この曲は、愛する人物がほかの相手のところに行ってしまうのをリアルタイムで現場目撃し、激しいショックを受け落ち込んで、こんなの見るくらいだったら「いっそ目が見えなくなりたい」と強く嘆くという内容の悲痛な失恋歌です。

ところがウィギンズ・ヴァージョンは堂々たる声のハリとツヤでもって、そんなハート・ブレイキングな失意なんかどこにもないと思わせてしまうポジティヴな自信と風格に満ちあふれているじゃないですか。「これ以上のものはない」と確信させてしまう納得のヴォーカルです。

フェイムという会社もスペンサー・ウィギンズという歌手も「I’d Rather Go Blind」という曲も、あの瞬間ぼくのなかで永遠に忘れられないものとなり、サザン・ソウル、ディープ・ソウルへの格好の道案内となったのでした。

ウィギンズのフェイム(とXLの)音源集は、その後2010年に英ケントが『Feed The Flame: The Fame and XL Recodings』というCDにまとめてリイシューしてくれました。(ケント盤やジャスミン盤などは)もちろんサブスクにないので、ぼくもCDで楽しんでいます。

(written 2023.2.16)

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