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サントラで音だけになっても高揚感は同じ 〜『サマー・オヴ・ソウル』

(7 min read)

v.a. / Summer of Soul (…Or, When The Revolution Could Not Be Televised) Original Motion Picture Soundtrack

昨年日本でも公開された映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放送されなかった時)』は、ソースである1969年夏のハーレム・カルチュラル・フェスティヴァルのコンサート・シーンに多数のインタヴュー風景(は2021年時点でのもの)をどんどんインサートしてありました。

そのため、あのフェスティヴァルに出演したブラック・ミュージシャンたちの音楽こそをそのままじっくり楽しみたかったという黒人音楽ファンにはやや不満が残るものだったというのも事実。映画公開時点ではサントラ・アルバムも出ませんでしたし。

今年一月になって、そのサウンドトラック・アルバムがようやくリリースされたわけです。タイトルは映画と同じ『サマー・オヴ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放送されなかった時):オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック』(2022)。

以下、映画で流れた曲を登場順に一覧にしておきましたので、今回発売されたサントラ・アルバムのトラックリストとじっくり比較してみてください。映画本編はディズニー+で配信されています(ビートルズ『ゲット・バック』のついでに観て確認した)。

右に*印がついているのはサントラにないもの。アビー・リンカーンとマックス・ローチの「アフリカ」はデジタル・リリースだけでCDには未収録のようです。

  1. Drum Solo / It’s Your Thing (Stevie Wonder) *

  2. Uptown (The Chambers Brothers)

  3. Why I Sing The Blues (B.B. King)
    ~~ Knock On Wood (Tony Lawrence and The Harlem Cultural Festival Band)

  4. Chain Of Fools (Herbie Man ft. Roy Ayers) *
    ~~ Give A Damn (The Staple Singers)

  5. Don’tcha Hear Me Callin’ To Ya (The 5th Dimension)

  6. Aquarius / Let The Sunshine In (The 5th Dimension)

  7. Oh Happy Day (Edwin Hawkins Singers ft. Dorothy Morrison)

  8. Help Me Jesus (The Staple Singers) *

  9. Heaven Is Mine (Prof. Herman Stevens & The Voice Of Faith) *

  10. Wrapped, Tied & Tangled (Clara Walker & The Gospel Redeemers) *

  11. Lord Search My Heart (Mahalia Jackson & Ben Branch) *
    ~~ Let Us Break Bread Together (Operation Breadbasket)

  12. Precious Lord, Take My Hand (Mahalia Jackson & Mavis Staples)

  13. My Girl (David Ruffin)

  14. I Heard It Through The Grapevine (Gladys Knight & The Pips)

  15. Sing A Simple Song (Sly & The Family Stone)

  16. Everyday People (Sly & The Family Stone)

  17. Watermelon Man (Mongo Santamaria)

  18. Abidjan (Ray Barretto) *
    ~~ Afro Blue (Mongo Santamaria)

  19. Together (Ray Barretto)

  20. It’s Been A Change (The Staple Singers)

  21. Shoo-Be-Doo-Be-Doo-Da-Day (Stevie Wonder) *

  22. Ogun Ogun (Dinizulu & His African Dancers & Drummers) *
    ~~ Cloud Nine (Mongo Santamaria)

  23. Hold On, I’m Coming (Herbie Mann & Sonny Sharrock)

  24. It’s Time (Max Roach) *

  25. Africa (Abbey Lincoln & Max Roach)

  26. Helese Ledi Khanna (Hugh Masekela) *

  27. Grazing In The Grass (Hugh Masekela) *

  28. Backlash Blues (Nina Simone)

  29. To Be Young, Gifted & Black (Nina Simone) *

  30. Are You Ready (Nina Simone)

  31. Higher (Sly & The Family Stone) *

さて、映画のほうの感想は昨年10月に映画館で観たとき書きましたが、いかにもヒップ・ホップ・ドラマーだけあるという監督クエストラヴのリズム感が全編で冴えていて、個人的にはとても好きでした。ステージでの演奏シーンにインタヴュー風景が挿入されるテンポにモンタージュ・ビートがあったというか、そこにヒップ・ホップなトラック・メイク感覚があふれていて、しかも現代のBLMテーマもくっきり描き出していたなと思えましたし。

サントラ・アルバムで音楽だけになれば、1969年のものですから当然そういう要素は消えるわけで、2020年代的な意味ではイマイチおもしろくなくなったかも?という気がしないでもありません。それでもハーレム・カルチュラル・フェスティヴァルでの音楽がどんなだったかはわかりやすくなりました。

サントラを聴き進み個人的に特に印象深いのは、まず3、4トラック目のフィフス・ディメンション。黒人グループがなぜか白人音楽をやっているなどと当時は言われたものでしたが、なかなかどうしてファンキーじゃないかと思えます。そもそも黒/白と音楽性を分ける必要があるのか?という根源的な疑問も湧いてきます。

ハーレムのどまんなかで大勢の黒人(ばかりな)聴衆の前で披露するブラック・ミュージック・フェスティヴァルなんだから、フィフス・ディメンション側もある程度意識したという面があったかもしれませんが、そもそもそんな白人音楽っぽくはなかったのだというのがぼくの正直な感想です。

7、ステイプル・シンガーズも興味深いですね。パップス・ステイプルズがギターで短い同一フレーズを延々反復するブルーズなわけですが、このヒプノティックなループ感覚はまるでノース・ミシシッピのヒル・カントリー・ブルーズみたいじゃないですか。

ジャズ聴きとしては12、ハービー・マンも気になります。特にソニー・シャーロック(ハービーのメンバー紹介では「サニー・シュラック」に聞こえる)のギターのアヴァンギャルドさにしびれるわけですが、実はそれもブルーズ伝統に沿ったものだったとよくわかります。

そしてなんといってもサントラのクライマックスはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの二曲とニーナ・シモンの二曲。映画のほうでもBLM的なテーマを表現するのに重要な役割を果たしていた二者ですが、サントラで音だけになっても高揚感は同じ。

黒白混淆の現代的共存を(69年当時は)目指していたスライに比べ、ニーナのほうはディープにアフリカン・ルーツを見つめる内容で、そんなニーナの「アー・ユー・レディ」みたいな音楽でアルバムがしめくくられるのには、やはり2020年代のブラック・テーマを打ち出したいクエストラヴの意図がしっかりみえます。

(written 2022.1.31)

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