見出し画像

レイヴェイに夢中

(5 min read)

Laufey / Typical of Me

惚れちゃったぁ。

レイキャビク出身、中国系アイスランド人で、現在は米ボストンを拠点にしているレイヴェイ(Laufey)。本人のTwitterプロフィールに名前の発音が書いてあるのに従ってレイヴェイと書きました。ボストンにいるのはバークリー音楽大学に在籍中だからですね。

幼いころからクラシックや古いジャズに親しみながら育ったらしく、やがてそうした伝統的な音楽性と新世代ならではの感覚をうまく融合させた独自の世界を育みたいと願うようになり、それでバークリー音楽大学へ進んでいるようですよ。

そんなレイヴェイが四月末にリリースしたデビューEP『ティピカル・オヴ・ミー』(2021)は、COVID-19感染流行によるロックダウンのさなか、自室での簡素な環境でコツコツ宅録されたものらしく、たしかにベッドルーム・ポップっぽいアンニュイさというか退廃感もただよっているかもしれません。

がしかし、このアルバムで聴けるレイヴェイの音楽は、基本、ラウンジ・ミュージック的なヴィンテージ・ジャズ・ポップスですね。それも落ち着いたやや低めのトーンで、淡くささやくようでありながら、しっかりと、スウィートに、そしてやや仄暗く歌うしっとり系の歌手で、まるで往年のエラ・フィッツジェラルドのよう。

『ティピカル・オヴ・ミー』収録の七曲は、スタンダードの4曲目「アイ・ウィッシュ・ユー・ラヴ」を除き、すべてレイヴェイのオリジナル。自身のヴォーカルに、演奏もギター、ピアノ、チェロをこなす彼女自身の多重録音によるもので、あとはビートなど足しているのはDAWアプリを使っているんでしょう。

ヴォーカルにはジャジーなだけでなくソウルフルな味もあって、かすかにR&Bテイストなサウンド・メイクが聴かれるのは、いかにもいまどきのシンガー・ソングライターらしいところ。1曲目「ストリート・バイ・ストリート」でアナログ・レコードを再生するプチ音を挿入しているのは、自身のレトロな音楽志向でしょう。

その「ストリート・バイ・ストリート」一曲を聴くだけでぼくは完璧にレイヴェイにはまってしまったわけですが、出だし、ギターをぽろんと鳴らしながらしゃべるように歌っているかと思いきや、フィンガー・スナップ音の反復と自身の多重録音ヴォーカル・コーラスやピアノが入りリズミカルになって、デジタル・ビートが効きはじめたら、もう夢中。

低くたなびくような声質や歌いかた、しっかりした発声やノビ、ハリがあるちゃんとしたシンガーなんだとわかるのもポイント高し。いろんな歌手がやっているスタンダードの4曲目「アイ・ウィッシュ・ユー・ラヴ」はちょっぴりボサ・ノーヴァ・スタイルで。しかもそのビートをチェロのピチカートで演奏しているっていう。

あ、そうそう、3曲目「ライク・ザ・ムーヴィーズ」でだけホーン・アンサンブルやトランペット・オブリガートなど聴こえますが、バークリーの友人たちが参加しているんでしょうか。ほかはどれもレイヴェイの宅録ひとり多重録音だと思います。

自作曲は、どれもヴィンテージなジャジー・ポップス路線の、ちょっとキュートでセンティメンタル、ポップでスウィートなフィーリング。アレンジも実にシンプルで、どの曲も音数かなり少なめ、余分な要素はいっさいなしだけど、決して簡素とかテキトーということはなく、細部までかなり凝ってていねいにつくり込まれているのが、聴くとよくわかります。

曲もチャーミングだし、伴奏をつけるどの楽器も実にうまいし、それになんたってこのヴォーカル・トーンですね、惚れちゃったのは。不思議な吸引力を持ったデリケートなアダルト・ヴォイスで、聴いていてくつろげる魅力を持った、新世代にはまれな落ち着いた声質の歌手じゃないでしょうか。

たったの21分間。こんなに気持ちいいんだから、早く45分くらいのフル・アルバムでたっぷり聴いてみたいな。ビッグ・バンドやオーケストラを伴っても映えそうな資質の持ち主ですね。

そんなにも魅力的なレイヴェイの『ティピカル・オヴ・ミー』、レコードやCDといったフィジカルはありません。ダウンロードかストリーミングでどうぞ。YouTubeにも全曲あります。

(written 2021.5.25)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?