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エロスとタナトス 〜 池田エライザ「Woman”Wの悲劇”より」

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池田エライザ / Woman”Wの悲劇”より

七月中旬にリリースされた松本隆作詞活動50周年トリビュート『風街に連れてって!』(2021)。これにとんでもないものが収録されています。それは5曲目、池田エライザの歌う「Woman”Wの悲劇”より」。

このアルバム『風街に連れてって!』は、文字どおり松本隆トリビュートな内容で、松本が歌詞を書いたいままでの代表曲のなかから、いずれも知名度の高い有名曲ばかり11曲を選び出し現代の歌手たちに歌いなおさせたという内容。

全体的になかなか聴けるアルバムなのですが、それでも5曲目の池田エライザ「Woman”Wの悲劇”より」が流れてきた瞬間、ぼくはたいへん大きな衝撃を受けました。これは死と官能の香りが強くただよう、危険なヴァージョンです。こんな歌、聴いたことないですよ。

池田エライザのことはちょっと説明しておいたほうがいいのでしょうか。母がフィリピン人とスペイン人のミックス、父が日本人で、フィリピン生まれ、福岡育ちの、モデル、俳優、映画監督。たまに歌も歌ってきたみたいですね。ギターも弾きます。現在25歳。

しかしこんなふうに歌える存在に成長していたとは、はっきり言ってビックリ。大衝撃ですよ。「Woman”Wの悲劇”より」、ピアノとシンセサイザーのイントロに続き、エライザの声が流れてきた瞬間、背筋が凍りそうになりました。この声!なんですかこの声は。退廃感も強くただようこの声だけで聴き手をトリコにしてしまいます。

幽玄な雰囲気の伴奏も退廃ムードを高めていますが、このエライザのヴォーカルには死と官能の香りが非常に強くただよっています。こんな歌は、狙って、考えて、歌えるものじゃないですよね。エライザのこの持って生まれた声質そのものに宿る運命的なものを強く感じます。

それと「Woman”Wの悲劇”より」という曲の持つ魅力とが高次元で合体してしまったという、そういうヴァージョンですよ、これは。松本隆の書いた歌詞は、受けとりようによっては心中をも想起させる危険なもので、そこに呉田軽穂(松任谷由実)の手になる浮遊感のあるメロディとコード展開、それを歌うエライザのこの声が重なって、これ以上ない「Woman”Wの悲劇”より」になってしまっています。

「Woman”Wの悲劇”より」史上、最高傑作に仕上がったことは間違いありません。いまにもこの世から消えてしまいそうなはかなさをとても強く感じさせるこのエライザの声、それがまるで魔力のようにぼくをひきつけてやみません。おそろしい。これは死への誘惑ですから。

(written 2021.7.23)

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