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クールでおだやかな抑制と泥くさいダンス・ビート 〜 ナンシー・アジュラム

(3 min read)

Nancy Ajram / Nancy 10

みんな大好き、っていうほどのことはないのか、一部で?熱狂的に支持されるレバノンの歌手ナンシー・アジュラム。7月10日に今2021年の新作が出ました。やはり『ナンシー 10』というタイトルで、これはここ数作の路線をそのまま継承。中身はややダブケ寄りのダンス・ビートですかね。

とにかくブルーを基調にしたジャケット・デザインがステキで、それを眺めているだけで心地いい気分にひたれますが、爽快感のあるそんなカヴァーとは裏腹に、音楽はやや泥くさく、ダブケというかアラブ現地の土着ダンス・ビートを基調にした曲が多いように思えます。

それとゆったりしたバラード調の曲とが交互に入り混じり並んでいるといった構成ですかね。ダンス・ナンバーもバラード系も曲としての完成度は高く、トラックもじっくりていねいによくつくりこまれているといった印象。だれがプロデュースやアレンジをやっているのか、名前を見てもぼくにはたぶんわからないだろうと思いますが、さすがの仕事ぶりです。

ナンシーは歌手としていまちょうどいちばんいい時期にあるんじゃないかと思える充実のヴォーカル・パフォーマンスで、アラブ圏独特の揺れるメリスマを、それでもかなり抑えて控えめに披露しながら、歌に独特の濃厚な情緒を込めていくのがすばらしいですね。曲の様子というか持ち味をうまく読んでいるなと思うんです。

濃厚な情緒といっても、この『ナンシー 10』ではわりとあっさりめというか、上でも言いましたがやや控えめに、強く激しい表現スタイルはとっておらず、いまの世界のポピュラー音楽界で主流となってきているエモーションを抑えたクールでおだやかなヴォーカル表現に徹している印象があります。

おかげでなんど聴いても胸焼けしないし、くりかえしなんどでも聴けるアルバムに仕上がっているのは好感度大ですね。ナンシーのそんなおだやかでクールなヴォーカル・パフォーマンスというのが、このアルバム最大の特色で、だからこのさわやかジャケットの印象とそこは合致します。

そのへんの洗練と泥くさいダブケ・ビートとの絶妙なバランスが、このアルバム『ナンシー 10』のキモかもしれませんね。飽きずになんどでも聴ける好作です。

(written 2021.7.30)

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