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マイルズのポジティヴィティ 〜 BLMミュージックとしての『ジャック・ジョンスン』

(4 min read)

Miles Davis / Jack Johnson & others

こないだからマイルズ・デイヴィスのアルバム『ア・トリビュート・トゥ・ジャック・ジョンスン』(1971)が一部でだけちょっぴり話題を集めていますよね。なぜなんでしょう、Mobile Fidelityが高音質盤のLPとSACDでリイシューしたから?先の2月24日が71年のオリジナル発売日だったから?

ともあれ、これがむかしから大好きなぼくにはうれしいことで、思い出すいいきっかけになりました。1970年4月録音を中心に組み立てられた『ジャック・ジョンスン』はジェイムズ・ブラウンとスライ&ザ・ファミリー・ストーンへの言及をふくむブラック・ジャズ・ロックの傑作で、しかもいま2020年代にはBLMミュージックとして聴けるという意義があると思いますよ。

1974年リリースの二枚組だった『ゲット・アップ・ウィズ・イット』なんかもそういった側面がありますが、パワーとポジティヴィティは『ジャック・ジョンスン』のほうがさらに上。1970年2〜5月ごろのスタジオ・セッションでのマイルズは、シンプルなギター・トリオ編成でこうした音楽をどんどん展開していました。

黒人ボクサーにして世界ヘヴィ級チャンピオン、ジャック・ジョンスンの伝記映画のために制作された音楽だというのが、どんな人生を送ったボクサーだったのかをふまえると、いっそうこの音楽のBLM的意味へとつながっていきます。しかしそんな映画サウンドトラックを、という要請がセッション時にあったわけじゃありません。

マイルズは勝手きままにどんどんスタジオ入りしてはセッションをくりかえし、ティオ・マセロもテープを止めずに全貌を記録していただけで、ジャック・ジョンスン伝記映画サントラをというリクエストを受けたティオが録音済み音源を利用してそれらしく仕立てあげただけです(ティオは映画サントラが得意なプロデューサーで、人生でいちばん成功したのも『卒業』のサントラ)。

ですが、そうしてできたアルバムがジャック・ジョンスンみたいな人物を描く音楽として、結果的にだったとはいえ、これ以上なくぴったりハマりこんでいるという事実、アメリカ社会で黒人としてプライドを持ち前向きに生きるという力強く鮮明なマニフェストみたいに聴こえるという事実が、とりもなおさずこの時期のマイルズ・ミュージックの現代的価値を決めているんじゃないかと思います。

『ジャック・ジョンスン』などこの時期のマイルズ・ギター・ミュージックにあるこのサウンドとビートに鮮明に聴きとれるポジティヴさと力強さ、そして肯定感こそが、2020年代にこの音楽をBLM運動のためのものと再解釈できるなによりのヴィークルでしょう。

そうした人間的プライドに支えられた人種意識と気高さが21世紀的なブラック・アメリカン・ミュージックとBLMの特質で、約50年前の音楽なれどマイルズの『ジャック・ジョンスン』などはピッタリそれを表現できているように聴こえます。

(written 2022.3.5)

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