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まるで1920年代のサッチモのように 〜 エヴァン・アーンツェン

(5 min read)

Evan Arntzen / Countermelody

Instagramの音楽フレンド、kznr_tkst(hifi_take_one)さんに教えてもらいました。

エヴァン・アーンツェンという読みでいいんでしょうか、Evan Arntzen。カナダはヴァンクーヴァー出身、現在ニュー・ヨーク・シティで活動しているジャズ・リード奏者(主にクラリネット)ですが、その最新作『カウンターメロディ』(2021)はニュー・オーリンズ・スタイルの古典ジャズで、なんとも痛快。ぼくなんかにはこれ以上ないという内容です。

エヴァンには公式サイトがあってくわしいバイオなんかも掲載されているので、気になったかたはぜひご一読ください。なんでも祖父からまずジャズを学び、ルイ・アームストロング、シドニー・べシェ、ジェリー・ロール・モートン、デューク・エリントンなどを聴いて成長したそうです。

クレセント・シティの音楽に魅せられて、みずから追求して実現しているのがエヴァンというわけで、最新作『カウンターメロディ』でも、やはり1920年代ふうの古典的ニュー・オーリンズ・ジャズ志向が全開。現代の最新録音でこういった音楽を聴くのは、ちょっと妙な気分もします。

もう1曲目からして、まず曲だっておなじみ「マスクラット・ランブル」っていう時点でニヤけてしまいますが、もちろん演奏スタイルは1920年代のサッチモふう。ホット・ファイヴとかあのへんの音楽そのまんまですよね。ホーン編成はトランペット、トロンボーン、クラリネットの三管っていう、これも完璧ニュー・オーリンズ・ジャズ的。

2曲目以後も、スタンダード曲&自分の(バンド・メンバーふくめ)オリジナル曲とりまぜながら、ヴィンテージな音楽をそのまま展開しているエヴァンとそのバンド。2021年の最新作としてこういう音楽が世に出たっていうことが、もううれしくてうれしくて。演奏内容だってハイ・クォリティだし、もう言うことありませんね。

かと思うと、聴き進んでいくうち、オッ!と思わせる曲がいくつかあります。1〜9曲目までは100%ヴィンテージな1920年代ふうニュー・オーリンズ・ジャズ復興路線ですが、続く10曲目の「オルヴィタ」。これはちょっとジャズでもないようなカリブ/キューバ音楽なんですよね。

ジャズをふくめニュー・オーリンズの音楽にあるカリブ要素はいまさらくりかえす必要もないはず。エヴァンらはニュー・オーリンズ・ジャズを愛するあまり、カリブ音楽方面にまでしっかり視野を拡大しているということで、ホンモノなんだなとわかります。10「オルヴィタ」、曲は参加しているトロンボーン奏者の書いたもの。

かと思うと、11、12曲目がなぜかのハード・バップ、それもアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズを想起させるファンキー・ジャズで、ピアニストがまるでボビー・ティモンズばりに弾きまくるっていう、なんだこりゃ?なんでこんなのやってんの?

13曲目。タイトルが「Solitarity」になっていて、最初は「Solidarity」の誤植かなんかじゃないの?と思ったんですが、聴いてみて納得。ソリタリティっていう英単語は造語なんでしょうね。気高い孤高のプライドみたいなものを強く感じる演奏で、まさしくクラシカルなニュー・オーリンズ・ジャズのスタイルでありながら、21世紀の現代にも訴求性のある音楽になっています。エヴァンの自作曲。

個人的には、1〜9曲目の典型的1920年代ふうのヴィンテージ・ニュー・オーリンズ・ジャズをうれしく聴きながらも、同時にカリブへの視点を表現した10「オルヴィタ」や、13「ソリタリティ」でみせるエヴァンの誇り高さと自信に満ちた毅然とした態度にも感心しますね。

アルバム最終盤の14、15曲目は<ワックス・シリンダー・セッションズ>との副題のとおり、わざと音質を加工して古いSPレコードみたいに聴こえるようにロー・ファイにしてあるものですが、蝋管というほどの古めかしさじゃないよねえ。でも古いジャズがほんとうに好きなんだなあというエヴァンの気持ちは伝わってきます。

(written 2021.10.29)

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