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ブルー・ノートの有名ヒットに聴く8ビート

(6 min read)

https://open.spotify.com/playlist/03v08073YFtriJYto8uO1K?si=b91V_LaCQmqKpEksZZwaDQ

以前から言いますようにブルー・ノートはレーベル公式でよく配信プレイリストをつくってくれるのが楽しいんですが、今2020年にも『ブルー・ノート:クラシック・ヒッツ』というのをリリースしてくれました。タイトルどおり有名曲ばかり、もうあまりにも古典的すぎるものばかりどんどん流れてくるんで、目新しいことはなにもありませんが、ただ BGM にして軽いモダン・ジャズ気分にひたりたいというときは最適です。

これを流していて気がついたのが、8ビート・ナンバーがかなりあるぞということです。このプレイリストはべつにジャズ・ロックとかソウル・ジャズ、ジャズ・ファンクのそれではありません。きわめて正統的なハード・バップを中心に収録したオーソドックスなアンソロジーであって、しかもそのなかにこれだけ8ビート調があるとなれば、なにかちょっと考えざるをえませんよね。

特にいわゆるファンキー・ジャズのなかに8ビートが多いと思うんですけど、このレーベル公式配信プレイリスト『ブルー・ノート:クラシック・ヒッツ』で聴ける8ビート・ナンバーを以下に抜き書きしておきました。

・Moanin' (Art Blakey and the Jazz Messengers)
・Song For My Father (Horace Silver)
・The Sidewinder (Lee Morgan)
・Watermelon Man (Herbie Hancock)
・Señor Blues (Horace Silver)
・Dat Dere (Art Blakey and the Jazz Messengers)
・Blues Walk (Lou Donaldson)
・Cantaloup Island (Herbie Hancock)
・Back At The Chicken Shack (Jimmy Smith)
・Chitlins Con Came (Kenny Burrell)
・Alligator Bogaloo (Lou Donaldson)
・Blue Bossa (Joe Henderson)
・Ceora (Lee Morgan)

鮮明な8ビート・リズムが中心ですけど、なかには4ビートのなかにフィーリングだけ8ビートの跳ね、バックビートっぽいノリをあわせもっているかなと思うものもふくめました。たぶんジャズ・メッセンジャーズの「ダット・デア」やルー・ドナルドスンの「ブルーズ・ウォーク」なんかは感覚だけですね、8ビートっぽいちょっぴりそんな感じがするというだけです。また、6/8拍子の曲もあります。

この事実、保守的なモダン・ジャズ・ファン(ってむかしながらのっていうか旧態依然たるジャズ・ファンがまだ残っているのかわからないんですけど)のみなさんには「エエ〜ッ!」って言われそうですよね。ジャズのビートは4拍子と決まっているじゃないかと、そう思われるかたがいまだおられるかもしれません。

でもあらゆるジャズ・ソング中最も有名かもしれない「モーニン」だって8ビートなんですよ。しゃくりあげるようなアフター・ビートが効いているでしょう、特にアート・ブレイキーがそれを叩き出していますけど、でもこういうのはロックの8ビートというのとは違うかも?と思うんです。ゴスペル・ジャズのルーツにもなったアメリカ黒人教会のダンス・ミュージックにあるリズムだと思うんですね。

そう、ゴスペルとかブルーズとかそういったものを、特に1950年代後半ごろから、特に黒人ジャズが積極的に取り入れるようになり、その結果いわゆるファンキー・ジャズの勃興につながったわけで、もちろんそのころの同時代のロック・ミュージックや、そのルーツたるリズム&ブルーズなどが流入した部分だってあるんでしょう。

ジャズだけがあたかも他の音楽の要素の混入なしに試験管のなかで純粋培養されるように成長してきていたなんていうことは、もちろんありえません。社会のなかで生きている音楽だったんですからね、だから時代や社会の傾向、流行や有名ヒットや、あるいはミュージシャンならではの鋭い感性で受けとる同時代的共振・共感といった現象だってあったでしょう。

それにそもそもモダン時代以前からジャズ・ナンバーのなかに8ビートはわりとありました。指摘なさるかたは指摘なさっていたわけですが、たとえばカウント・ベイシー楽団がやる泥くさいブルーズ・ソングのリズムが8ビート・ノリになったり、デューク・エリントン楽団がやるシャッフル・ブルーズ楽曲も8ビートの衣をまとっていることがままありましたよね。両者とも1930年代からそうです。

もっと前のジャズ揺籃時代(19世紀末〜20世紀初頭)のことを考えれば、ニュー・オーリンズなどアメリカ南部で2拍子系、4拍子系だけがぽこっと抽出されるようにジャズ・ビートとして採用されたなんてことはたいへんに考えにくいんですから、出現期のジャズのなかにだって8ビートはじめ種々の快活なリズム形態が混在していたはずです。ラテン要素も濃いんですからね。

音楽でもなんでもジャンルとして確立し発展をとげれば、ある特定要素を強調する、煮詰めるように進むということがあるわけで、ジャズのばあいそれが4ビートの採用ということにつながったかもしれません。でも8ビートやそれっぽい複雑で跳ねるリズム表現が消えてなくなったわけでもなく、ブルーズやゴスペルなど黒人音楽要素を前面に打ち出すときは表面化していたわけです。

「モーニン」「ザ・サイドワインダー」「ウォーターメロン・マン」などなど、モダン・ジャズ・クラシックと呼ばれるこうしたブルー・ノート・ヒッツのなかで8ビート・リズムがこれだけ鮮明なかたちをとって現れているのも、もとをただせばジャズだってそんな音楽だったということですし、モダン・ジャズの時代になって表現の幅、自由度が高まったがため(人種解放意識の高揚とも関係があったと思います)にこうなったのだと考えることができますね。

いずれにしても、ジャズのビートを4/4拍子と限定するのはおかしなことです。(ロックにも似た感じの)8ビートはたくさんあるんです。それも有名な代表曲のなかに。

(written 2020.4.22)

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