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2022年ジャズ最高傑作 〜 パトリシア・ブレナン

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Patricia Brennan / More Touch

パトリシア・ブレナン(メキシコ、在NYC)の新作アルバム『モア・タッチ』(2022)がリリースされました。以前から本人のソーシャルで予告され、二曲先行で聴けたので、おおいに期待が高まっていたところ、それをはるかに超える水準の大傑作で、パトリシアは一気にNY現代ジャズ・シーンの中心におどりでた感じです。

全編アンビエントなヴァイブラフォン(+エレクトロ・エフェクター) or マリンバ独奏だった前作『Maquishti』(2021)から、今回はパーカッション・カルテットへと編成を替えています。コントラバスは通常打楽器の範疇には数えられないものですが、本作での扱いはビート楽器として。

ベース以外はパトリシア+ドラムス+パーカッションというわけで、今回の新作でも各種デジタル・エフェクトをヴァイブにかけて、音をかなり曲げています。音色でグルーヴするというか、そんな音響性にも特色のある音楽家ですからね。

前作の延長線をカルテット編成で拡大したような部分もありますが、大きく異なる音楽性を持った本作、それはルーツたるメキシカン・フォークロアへと立ち還り、リズム面でかなり大胆な冒険をしているところ。

そのために21世紀新世代ジャズを代表するグルーヴ・メイカーの一人マーカス・ギルモアと、ラテン・パーカッショニストのマウリシオ・エレーラを起用していて、四人で自在に変化するしなやかで多彩でディープなリズムをノリよく産み出しているさまには、聴いていてゾクゾクするスリルがあります。

譜面化し緻密に練りあげられたコンポジションと飛翔する集団インプロヴィゼイションとのバランスもあざやかで、その軸をマーカスの闊達なドラミングがしっかり握っている印象です。じっさい本作でのこのドラマーの活躍ぶりには耳をそばだてる秀逸さがありますね。主役といってもいいくらい。

特にすばらしいと感動するのが1「Unquiet Respect」、3「Space For Hour」、4「El Nehualli (The Shadow Soul)」、6「Square Bimagic」、9「Sizigia (Syzygy)」あたり。躍動的にグルーヴするアフロ・メキシカン・ジャズといった感じで、ワクワクします。

ことに14分以上におよぶ大作「Space For Hour」は最初ピアニッシモでゆったりと幕開けするものの、徐々にマウリシオのコンガがいろどりをくわえていき、その後なんどかさまざまに曲想と調子を急変させながら中盤からは大きくもりあがり、エンディングで激しい打楽器四重奏が一体となってグルーヴィに昇天します。

(written 2022.11.21)

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