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ブルーズ・ロックをいろどる管弦アンサンブル 〜 ラーキン・ポー&ヌ・デコ・アンサンブル

(5 min read)

Larkin Poe, Nu Deco Ensemble / Paint The Roses (Live In Concert)

こちらもぼくのお気に入り、レベッカ&ミーガンのローヴェル姉妹をツー・トップとする時代遅れのブルーズ・ロック・バンド、ラーキン・ポー。やはり新作ライヴ・アルバムの『ペイント・ザ・ロージズ(ライヴ・イン・コンサート)』(2021)が出ました。昨年もスタジオ録音で二作出しているし、なんだかコロナ禍に入ってかえって活動が活発化しているような。

ともあれ、これもルーマーの新作ライヴ・アルバム同様9月17日にリリースされたもので、なんだかこの日はリリース・ラッシュだったというか、ジャズ・ドラマー、ネイト・スミスのニュー・アルバムも出ましたよね。それもおもしろかったし。

七曲29分しかありませんが、ラーキン・ポーの新作ライヴは、なんとヌ・デコ・アンサンブルという管弦の室内楽オーケストラとの共演。昨年12月にマイアミで行われたコラボ・コンサートを収録したもので、その映像は全曲YouTubeで観られます。

ヌ・デコ・アンサンブルのほうにぼくはなじみがないわけですが、なんでもマイアミを拠点とする2015年発足のオーケストラで、しかもジャンル・クロシングなというか、自身の表現を使うとハイブリッドで「折衷的な」音楽活動を続けているそう。いままでにワイクリフ・ジョン、P. J. モートン、メイシー・グレイ、ジェイコブ・コリア、ベン・フォールズなどなど多数と共演してきているみたい。

ヌ・デコ・アンサンブルは2020〜21年のコロナ・シーズンに、感染対策に配慮してソーシャル・ディスタンスをとったストリーミング・コンサートのシリーズを実施していて、やはりジャンル混交的なプログラムだったそうですから、ラーキン・ポーとの初共演は(クラシック・ロック勢とのコラボも多く経験している)ヌ・デコ側からもちかけたんじゃないかと思います。

演奏曲目はいずれもラーキン・ポー・サイドのもので、過去作でやっていた曲ばかり。オリジナル・アルバムとしては最新作にあたる昨年初夏の『セルフ・メイド・マン』からのレパートリーが中心です。一曲、「マッド・アズ・ア・ハッター」だけは、自作の新曲じゃないかと思います。

ヌ・デコ・アンサンブルのオーケストラ・サウンドはさほど大きくは目立たず控えめで、どこまでもラーキン・ポーのローヴェル姉妹のギターと歌をフィーチャーしているといった内容。こういうのがヌ・デコの共演スタイルなのかもしれませんが、ミキシングでも配慮しているように聴こえます。

考えてみれば、ハード・ロックとクラシカルな管弦のオーケストラル・サウンドとの相性は、レッド・ツェッペリンなどを思い出してみてもわかるように、むかしからいいです。ツェッペリンでいえば『フィジカル・グラフィティ』とか、あのへんのビッグ・サウンドを想起させるものが、このラーキン・ポーの新作にはあります。

それをメロトロン(古っ)とかシンセサイザーとかじゃなくて、生演奏のアクースティック・オーケストラで実現したというところに、このアルバムの眼目があるのでしょう。ローヴェル姉妹のコアなクラシック・ロック愛がいっそうきわだって聴こえますし、カラフルでふくよかなサウンドになって、聴きごたえありますし楽しいです。

曲そのものはですね、以前からラーキン・ポーのアルバムでなじんでいたものがそんなに違っているとか変貌しているというわけではなく、どこまでもそのままライヴ披露したという背後にオーケストラがくわわってふくらませているだけといった感じですかね。

ヌ・デコ・アンサンブルにはレッド・ツェッペリンの曲を自分たちだけでオーケストラ再現するプログラムもあるそうで、こういったスコアは得意なのかもしれないですね。クラシック・ロックとシンフォニック・サウンドは似合うし、ハードだけど元来は単色で均一なラーキン・ポーの音楽にゴシックな多彩感を与えていて、おもしろいと思います。

(written 2021.9.20)

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