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ファド新世代の古典回帰 〜 カルミーニョ

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Carminho / Portuguesa

ちょっと好きなポルトガルの歌手、カルミーニョ。ファドでもないようなブラジル音楽路線もありました(両国を行き来しながら活動していた)。悪くないとぼくは思って以前一回記事にしましたが、三月にリリースされた最新作『Portuguesa』(2023)は古典ファド回帰みたいな感じでしょうか。

自作や共作曲が多く、それらだって伝統ファドのスタイル。とはいえギターラと混じりあうようにエフェクトの効いたエレキ・ギターが大胆に使われている曲があったり、あるいはエレキ・ピアノ&デジタル・マニピュレーターも。このへんはカルミーニョらしさです。

伝統ファドのマナーに(基本的には)沿いながら、必ずしも重苦しいばかりではない軽みをのぞかせているのも個人的にはいいと思います。それでも張りのあるナマナマしい声の重量感やコブシはしっかりあって、そこにかんしてはあっさり感じゃなくて濃厚な従来フィーリング。

11、12曲目に代表されるように地中海的な跳ねる陽光を感じさせる曲もアルバム後半にはあって、ファドにそうした一抹の明るさを求めるっていうか、この音楽にあるまるでこもれ日がさすかのようなやわらかい感覚が好きなぼくにはうれしいところ。

もう10年以上でしょうかファド新世代とか新感覚ファドだとか言われる若手歌手がポルトガルで続々台頭していて、それは近年のグローバルな音楽トレンドと合致もしていること。カルミーニョもその一人とみなされてきたわけです。

しかし今作は伝統派の重厚古典ファドにまずまず立ち返ったような内容で、原点回帰っていうかルーツ探訪というか(ある意味レトロ?)、ときおり新世代感を垣間見せながらも、アルバム全体の基本傾向としては従来的なファド・ファンをも納得させられそうな音楽を志向しています。

(written 2023.4.16)

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