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ダニカ・クルスティッチのストレートなバルカン歌謡

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Danica Krstić / Pod Gorom Se Setalo Devojce

ダニカ・クルスティッチ(Danica Krstić)、どこの歌手なんでしょう、名前からするに旧ユーゴスラビア圏ですよね、たぶんセルビアかな。その2017年作『Pod Gorom Se Setalo Devojce』が実に古色蒼然たるというか、ぼくたち、つまりエル・スール・ゴーワーズ的にはとってもいい感じに響くと思うんです。1995年生まれらしいからまだ25歳なのに、なんでしょう、このおばさんめいた歌謡の世界は。伝統的な音楽をやっているということなんだとは思いますけどね。録音時に21歳だったそう。

1曲目、2曲目からして古くさ〜い、じゃなくて伝統的なバルカン地方の音楽スタイルに乗って、ダニカがしっとりと歌います。声の出しかた、節まわしもふくめた歌いかたもやはりトラディショナルで、こういうバルカン民謡とか伝統音楽みたいなのを勉強してきているのかもしれないですね。そういえば、現在もベオグラードの音楽アカデミーで民俗音楽学を学んでいる最中でしたっけ。

バルカン半島の伝統的なフォークロアをそのまま活かしたようなサウンドづくりもいいし、楽団というかこれはオーケストラ伴奏ですよね、だれが演奏しているかみたいなことはわかりませんが、それもトラディショナルなスタイルで、コンボ編成のリズム+ストリングスを中心とするシンフォニーがくわわるといった感じでしょう。ストリングスはだれかが譜面を書いているわけですが、コアになっているのはバルカン半島音楽をやるバンドなんじゃないかと思えます。

曲もどんなものだかぜんぜん知らないんですけど、聴いた感じ、バルカン民謡をそのまま使っているんでしょうか?そんな素朴でフォーキーな印象があります。けっこう複雑な変拍子の曲も多いですね、そこはいかにもかの地らしいところ。それを伴奏陣が難なくこなすのもいかにもですし、ダニカもなに食わぬ涼しい顔で歌っているのが好印象です。独特の哀感が濃厚に漂っているのもわかりやすいですね。

しかもダニカのヴォーカルはそんなに情感を込めすぎず、ストレートにすっと歌っているのも印象に残るところです。コブシをあまりまわさずノン・ヴィブラートで素直に軽く発声しているのがぼく好み。でも声のテクスチャーそのものに暗い翳があらかじめ織り込まれているように聴こえて、そんなところは持ち前のものなのか、それともバルカン音楽を学んでいくなかで身につけたものなのか、とにかくこのしっとりとした中高年女性みたいな落ち着きを感じさせるような、それでいて素直でストレートな、歌いかたは、聴いていて心地いいですね。

(written 2020.4.3)

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