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ホレス・シルヴァーの、これはソウル・ミュージックかな

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Horace Silver / Total Response (The United States of Mind - Phaae 2)

ホレス・シルヴァー1972年(録音は70、71年)の『トータル・リスポンス(ザ・ユナイティッド・ステイツ・オヴ・マインド、フェイズ 2』、これはいったいどうしたんでしょう?それまでのホレスの音楽とはなにもかも違います。ガラリと変貌していて、1970年代前半当時のソウル/ファンク・ミュージック、に寄っていっているジャズ、じゃなくて、ソウル、ファンクそのものと言ってもさしつかえない内容になっています。

管楽器隊も参加しているもののアンサンブルだけで、アルバムをとおして(ジャジーな意味でもどんな意味でも)ホーン・ソロはまったくなし。ベーシストはエレベをファンキーに弾き、エレキ・ギターリストがぐちゅぐちゅとエフェクターをかませて(特にワウかな)ひずんだ音を出しまくっています。さらにホレスも全編エレピのみを弾き、それにもエフェクターをかませてあるんですね。さらにどの曲でもソウル・ヴォーカルをフィーチャーしています。

音楽がどれだけ変貌したかは、1曲目「アシッド、ポット・オア・ピルズ」の出だしをちょろっと聴いてみるだけでわかるんじゃないでしょうか。これはいったいどうしたことか?とビックリするようなサウンドですよね。スネアとエレベがぶんと鳴ったかと思うとすぐに思い切りワウをかませたエレキ・ギターのカッティングが鳴りだし、ホーンが背景に入りますが、すぐにヴォーカルが出ます。

しかもビートはファンキーな16ビートですもんねえ。これ、この1曲目を聴いて、これがジャズだと言えるひとはどこにもいないはず。でもやっているのはホレス・シルヴァーのバンドなんですから。ソロはリッチー・レスニコフ(ってだれ?)のぐちゅぐちゅいうエレキ・ギターのみ。それも短くて、だいたいの時間、歌が聴こえるというポップさ加減。

そもそもこのアルバム『トータル・リスポンス』ではソロの時間が、従来的なジャズ・マナーと比較すれば極端に少ないんです。ほとんど歌とギター、ちょっとのエレピだけっていう、そんなところもホレスが時代の音楽潮流の変化を感じとって自分の音楽にとりいれたところなんでしょうね。ジャズというよりポップ寄りのロックとかソウル、ファンクとかに大胆に接近している、というよりそれそのものをやっていると言えます。

ラテンなリズムを使ってある4曲目「アイヴ・ハッド・ア・リトル・トーク」のカッコよさとか(ミッキー・ローカー最高)、ポップなソウル・テイストの5曲目「ソウル・サーチン」なんか1980年代のブラック・コンテンポラリーを先取りしたようなサウンドで(エレピの音色に注目)、ファンク・ミュージックそのものと言いたい6曲目「ビッグ・ビジネス」のタイトさとか、もうこのアルバムはなにもかもがカッコよく、どこもぜんぜんジャズではなく、ここまでの音楽をジャズ・ミュージシャンとされている人物がつくりあげたとは大きな驚きです。

(written 2020.6.19)

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