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ビリー・ジョエルは『ターンズタイルズ』で完成した

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Billy Joel / Turnstiles

このリンクはアルバムではありません。ぼくのつくったプレイリストです。それがビリー・ジョエルの『ターンズタイルズ』(1976)なんですね。どうしてこんなことをしているかというと、Spotify にあるビリー・ジョエルの『ターンズタイルズ』アルバムはオリジナルどおりじゃないからなんです。4曲目「ニュー・ヨーク・ステイト・オヴ・マインド」のサックスがさしかえられていて、オリジナルのリッチー・カナータじゃなくてフィル・ウッズになっているんですね。どうしてこんなことをするのか、コロンビア。

だから自分でさがしてオリジナルの「ニュー・ヨークの想い」に入れ替えておいたわけです。これでスッキリ…、とはいきませんけど、なんとかとりあえず。調べてみたら1985年リリースのベスト盤『グレイテスト・ヒッツ』製作時にプロデューサーのフィル・ラモーンがフィル・ウッズに依頼して吹き替えたそうなんですね。それをその後アルバム『ターンズタイルズ』にもさかのぼって収録するようになったんでしょう。ぼくの持つ CD はオリジナルどおりですが、近年リリースのものはさしかわっている可能性があります。ああ、なんということをするのか…。

アルバム『ターンズタイルズ』は1976年の作品ですよ。その当時から現在にいたるまでレコード、CD でずっと愛聴してきているファンに対する裏切り行為ですよね。Spotify でしらみつぶしに聴いたら、2004年リリースのベスト盤『ピアノ・マン』収録の「ニュー・ヨークの想い」はオリジナルどおりなんです。これが2004年なんだったらその後のアルバム『ターンズタイルズ』もオリジナルに則したものにすればいいのに、Spotify にあるアルバムはどうしてそうなっていないんでしょうか。

さて、ビリー・ジョエルの1976年作『ターンズタイルズ』。ビリーがビッグ・スターになったのは次作77年の『ザ・ストレンジャー』の大ヒットによってだったので、『ターンズタイルズ』も初期作、無名時代のマイナー・アルバムとして扱われることが多いんですが、ぼくの認識はちょっと違います。 すでにこの作品から(西海岸を離れ)ニュー・ヨーク・シティに戻ってきているし、バンドも後年のレギュラー・メンバーが揃いつつあるしで、ビリー・ジョエル充実期の幕開けを告げるものだと個人的には考えています。

歌も演奏も充実しているということのほかに、曲がいいというのも大きな要因です。全八曲ではビリーの故郷ニュー・ヨークに題材を取ったものが多く、1「セイ・グッドバイ・トゥ・ハリウッド」、2「サマー、ハイランド・フォールズ」、4「ニュー・ヨークの想い」、8「マイアミ 2017」がすべてそうですね。これらはソングライターとしてのビリーの成長や充実を如実に表したもので、また3曲目「オール・ユー・ワナ・ドゥー・イズ・ダンス」の鮮明なラテン調も、ニュー・ヨーク・シティにヒスパニック系住人が多いことの反映かもしれません。

いずれの曲にも前作『ストリートライフ・セレナーデ』までではあまり聴けなかったまろやかなコクがあって、ソングライターとして完熟したんだなと納得できるできばえじゃないでしょうか。なかでも1「セイ・グッドバイ・トゥ・ハリウッド」4「ニュー・ヨークの想い」7「アイヴ・ラヴド・ジーズ・デイズ」の三曲は飛び抜けてすばらしく、ビッグ・スターになっていく『ザ・ストレンジャー』以後に誕生した名曲の数々と比較してなんら遜色ありません。特に「ニュー・ヨークの想い」はビリーの生涯を代表するナンバー・ワンの大傑作でしょう。

実際これらの曲はライヴで1977年以後も有名ヒット・ソングに混じってどんどん歌っていて、同じようにすばらしく響くということをぼくたちは実感しているんですね。『ザ・ストレンジャー』での商業的成功はそれで大きなことですけど、それとはちょっと違った事情として、音楽家としてのビリー・ジョエルはブレイク前夜の1976年『ターンズタイルズ』で一足先に完成したとぼくはみていますね。

惜しむらくはアルバム・トータルでみたときの構成、片面のつくりとか曲の並びとか、そういった点でやや不満が残るかもしれないといったことがあるかもしれません。そういった点、次作以後プロデューサーにフィル・ラモーンを起用するようになりますが、『ターンズタイルズ』はビリー自身のプロデュース。A 面 B 面の構成、つくり分けなど、イマイチに感じないでもないです。『ザ・ストレンジャー』や『ニュー・ヨーク52番街』など、その点完璧ですからね。

(written 2020.3.2)

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