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チェンチェン・ルーの音楽に惚れたんであって、見た目が好きなんじゃない

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この写真はチェンチェン・ルー(魯千千、台湾出身在NYCのジャズ・ヴァイブラフォン奏者)の公式Instagramに2021年夏ごろ上がっていたもの。当時の渋谷タワーレコードでの様子で、ちょうどPヴァインがアルバム『ザ・パス』のCDを日本で発売したころでした。

問題は付属しているポップに書いてあることば。「Cool & Beauty」くらいはなんでもありませんが、「美しすぎるヴィブラフォン奏者」ってなんですか。ルックスが美しいかどうかで音楽の価値が決まるんですか?「すぎる」ってなに?

この手のことは以前からぼくも言い続けていますし、一度は演歌歌手、丘みどりきっかけで徹底的に書いたことがありました。ほんとムカつく。容貌の美醜と音楽性は関係ないのに。

チェンチェン・ルーでこうやってルックスをどうこう言うのは、実はぼくが『ザ・パス』LPレコードを買ったディスクユニオンの通販サイトにも書かれてあって(「美しきヴィブラフォン奏者」)、ってことはそれぞれのお店じゃなく発売元のPヴァインが考え一斉に提供しているのかもしれません。

ふだんぼくはサブスクで音楽に出会いサブスクで聴いていますから、チェンチェン・ルーのときもそうだったけどこういった種類のことに気づかないことがよくあります。あとから知ってゲンナリするっていう。

ここ日本では、レコード会社など音楽業界が女性の歌手や演奏家のルックスを「美しい」と表現することで、それでもってセールスにつなげたい、つながるはずだろうという商慣習、メンタリティが根っこにいまだしつこくあって、どうにも抜きがたいということです。

音楽家なんですから、あくまで音楽の実力を言えばいいんであって、歌や演奏をアピールして売っていけばいいと思うんです。音楽好きが魅力を感じるのもそこであってルックスは関係ないだろうとぼくは確信していますし、そんな商慣習はなくなってほしいんですが、いまのところどうにもならないような印象。

エル・スールのサイトなんか、もうこういった「美人」「美形」のオン・パレード。「〜〜嬢」「〜〜女史」という表現もよくやっていて、店主や常連客などつまりあの界隈では女性音楽家をひとつの音楽人格としてちゃんと認めていない、人形のような愛玩品と考えている証拠です。オフィス・サンビーニャも同じ。

どのレコード会社もどのお店も「売りたくて…」という一心でやっていることだと理解はしていますけど、そもそも見た目が美しいというセリフをつけくわえておけば売れるだろうという発想があるということですから。実際それで売れるのか知らんけれども。

もちろん歌手とか演奏家とか、ぱっと見て美人だ、かわいい、カッコいい、イケメンだというのをイイネと感じるのは当然で、売り手もぼくらファンもそれが目に入り思わず言及したくなるというのは不思議なことではありません。

問題だと思うのは、そんなちょっとイイネと感じて思わず言ってしまうという部分じゃなく、音楽ビジネスの根本に性差別があって、ジェンダー・バイアスやルッキズムなしで商売が成り立たない、そもそも社会が根っこからそういう差別構造の上に成立しているということです。

じゃなかったらこんだけ歌手や演奏家を宣伝するのに「美人」「美しすぎる」なんていうポップやコピーがあふれかえるわけないですから。ひとりひとりの意識を刷新していかないとダメだとも思うと同時に、システムから変えていかないといけませんよね。

音楽は、やっぱり「音」を聴けよ、音の魅力で宣伝しろよ、と思います。声のよさ、ヴォーカル・パフォーマンスの魅力、演奏能力の高さ、どんだけチャーミングなサウンドを奏でるか、っていうことで売るようにしていってほしいし、うんそういう音楽だったら聴きたい、買いたいねとファンも思うようなビジネス・モデルにOSをアップデートしないとダメでしょう。もう2022年なんですから。

(written 2022.2.15)

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