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曖昧な興味から研究テーマを定める3つのステップ

適切な研究のテーマや目的を定めることは難しい作業です。漠然とした興味の対象はあるけれど、ゴーサインをもらえる研究目的を定めていくための具体的な方法がわからない、という学生さんは多いはずです。

この記事では、そのような場合に3つのステップでテーマを定めていく方法を紹介します。場合によってはテーマ決めの大半の部分を教員が担当することもありますが、その場合でも知っておく方が打ち合わせがスムーズです。

※この記事は、著者のブログ「駆け出し研究者のための研究技術入門」からの転載です。一部加筆修正しております。

3つのステップをざっくり言うと…

この記事で紹介する3つのステップは、「①対象の絞り込み」「②理想と現実のギャップの把握」「③障壁の把握と作戦会議」です。これらの3つのステップの必要性を理解して着実にこなせるようになりましょう。

テーマ決めの3ステップ

まずは最初のステップ「①対象の絞り込み」では、自分の興味のある対象を絞り込んで明確にしていきます。そして、2つ目のステップ「②理想と現実のギャップの把握」で、絞り込んだ興味の対象は「どうあるべき(理想)」なのに「今どの状況に留まっているか(現実)」を整理します。このステップによって、研究で埋めるべきギャップと進むべき方向性が定まります。最後のステップ「③障壁の把握と作戦会議」では、ギャップを埋めるうえで何が障壁になっているのかをなるべく精確に把握して、「どの障壁を突破するために何をどこまでやるのが現実的な作戦なのか」を検討します。具体例を交えつつ各ステップの実施方法を紹介していきます。

①「対象の絞り込み」は,興味の樹を育て、刈り取り、文章化!

漠然とはしていても、興味のある対象が見つかればそれがテーマ決めのスタート地点になりえます。ここでは、「人らしいロボットについての研究がやりたい」という興味があった場合を考えてみましょう。「人らしいロボットについての研究」と一口に言っても、色々なものがありますよね。ロボットを人らしく動かすための制御の研究、人らしく動くロボットの機構の研究、あるいは人らしく見えるロボットを使って人に影響を与える研究などです。この意味で、この興味はまだ漠然としています。

ステップ①では下の図のように、漠然とした興味から関連用語の枝葉を伸ばし、その「興味の樹」から興味の薄いものを刈り取って残ったものの組み合わせで興味を文章化していきます。

ステップ①対象の絞り込みの方法

まずは「興味の樹」を大きくしていく作業です。興味対象から関連用語の枝葉を伸ばしていくためには、インターネットを利用した階層的なキーワード調査が有効です。階層的、というのは、ある用語をキーとして関連用語を把握し、またその中でキーとなる用語を定めてそれに関連する用語をさらに把握していくという意味です。

例えば、まずは「人らしいロボット」という用語をキーとして、インターネット検索をしてみましょう。そして、見つかったサイトを片っ端から流し読みして、気になる関連用語をメモしていきましょう。今回は、「顔」「動き」「触れ合い」「対人印象」「センサ」「人工知能」などの用語を書き出したとします。

次は、「人らしいロボット 顔」のように、2つのキーワードをならべて検索にかけてみます。すると、「人らしいロボット」と「顔」の両方に関連する用語がたくさん現れるはずです。その中からまた気になる用語をメモしていき、上の図のように樹形図をどんどん大きくしていきましょう。

正確な用語関連図を作成することが目的ではないので、同じ用語が別の枝葉に書かれることになっても問題ありませんし、関連の薄いように思える用語が同じ枝葉に入ってしまっても構いません。興味の持てる用語をなるべく多くリストアップすることが目的なので、気にせず書き足していきましょう。

インターネット検索だけでなく、自分より知識のある周りの人に関連用語がないかを教えてもらったり、「〇〇学キーワード集」「××入門」のような一般書籍を図書館なりAmazonなどで探して片っ端から読み漁るのもいいですね。

ある程度枝葉が揃ってきたら、興味に合わせた刈り取りの作業です。その中で特に気になる用語とそうでないものを区別していきましょう。上の図のように興味の薄いものに斜線を引いてもよいし、気になるものに〇や◎をつけていってもよいです。この段階でも自分の興味関心に素直になることが大切です。

もし、「この用語はこういう意味だったら興味が持てるから残したいけど、そうじゃないなら興味が持てないなあ」という悩みが生じるなら、その用語についてさらに調べて枝葉を伸ばす作業に戻りましょう。枝葉を伸ばし、刈り取っていきながらも必要に応じて枝葉を伸ばし、また刈り取る、といったことを繰り返すことで、段々と自分の興味を表現する用語が絞り込めてくるはずです。

ある程度絞り込めたら、残った用語のいくつかを組み合わせて自分の興味を表現する文章を作ってみましょう。上の図の例では、「(外見以外の面で)人らしいロボット」の「触れ合い」や「触感」、そして「対人印象」が残っています。どんな文章になるでしょうか。なかなか思いつけない場合もありますが、例えば、「触れ合ったときに人らしさを感じさせるロボットに興味がある」というようにまとめられます。このようにまとめた文章に納得ができたら、次のステップに進みましょう。納得できる文章ができないなら、これらの用語の組み合わせで何を想像するかを誰かに尋ねてみるのもよい方法です。

②「理想と現実のギャップの把握」は、理想の具体化と現状分析で!

ステップ①の実施によって明確になった興味に対して次に行うことは、「それがどうあるべきか」という理想の具体化と、その理想に対して「現状はどうなっているか」の分析を通じて、理想と現実のギャップを明らかにすることです。この差を埋めることが「研究の方向性」と呼ばれるものに相当します。理想は、すぐには実現ができそうになくても、できるだけ多くの人に理想としてある程度納得してもらえるものであることが必要です。そのためには、「それがどうなれば誰にどんな価値が生じるか」という将来ビジョンをなるべく具体的に語れることが求められます。想像力を働かせましょう。

ステップ②理想と現状のギャップの把握の方法

例として上の図では、「ロボットに触れたときに感じる人らしさをデザインできればロボットの個性付けが効果的になり、またユーザ体験も豊かになる」という理想を定めました。この理想の部分を「そのような理想にしたいというニーズ(要求)が実際にあることを示せるもの」にする必要はありません。研究者の自由な発想に基づくビジョンに向けて活動を行えるところに大学の研究の価値があるので、精一杯の想像力を働かせましょう。

とはいえ、ある程度多くの人に納得をしてもらえる理想ビジョンにすべきであるという点に研究の意義づけの難しさがあります。

想像力を働かせたら、次に必要なことは専門的な調査と分析です。信頼性のある文献や資料を基に、「理想に対して何がどこまでやられているのか」を明確にしていきましょう。ステップ①で、関連する用語はある程度揃っているはずですので、それらをキーワードとして論文検索や専門的な分野解説書を読んでいきましょう。それらには、それらが執筆された時点で重要だと認識されている先行研究が複数紹介されているはずです。それらの先行研究で掲げられている理想や、解決に取り組まれた問題、解かれずに残った課題などを荒くかいつまんで読み、理想や問題、課題のそれぞれの点で似ている研究は同じグループに分類したり、何らかの度合いで差があるのであれば適切な軸上に先行研究を並べていきましょう。

このような分析を通じて、「何がどこまでやられているのか」と「何がやられていなかったのか」が段々と見えてくるはずです。上の図の例では、「ロボットの印象設計」をキーワードとする論文調査により「人らしさなどの性格印象のデザインに見た目や声色は使われているが、触感は使われていない」という分析結果を導き出しました。

このステップにおいて理想と現状を明確化したことにより、「理想と現状のギャップ」をはっきりと言えるようになります。つまり、「ロボットに触れたときに感じる人らしさをデザインできればロボットの個性付けが効果的になり、またユーザ体験も豊かになると期待できる一方で、そのような印象デザインに触感は利用されていなかった」というものです。これで、このギャップを埋めるという研究の大きな方向性が定まったら、次のステップに進みましょう。

③「障壁の把握と作戦会議」は,知識と経験のあるアドバイザーと問題分析!

研究の方向が定まったからといって、すぐに研究が始められるわけではありません。そのギャップを乗り越えて理想に近づいていく道中にどんな障壁があるか、すなわち、そのギャップがこれまでに解消されなかった要因がなにかを把握し、どの障壁(問題)をどのようなアイデアと手段で解消していくかという、研究の目的設定と手法に関する作戦を練らなければいけません。最小の労力で最大の成果を挙げられる実現可能性の高い作戦を考えてから実行しなければ、成果はなかなか挙げられません。

下の図にいくつかの作戦を図解しています。赤字で示したように、障壁も知らずに攻めるのはよくないですよね。何で躓いているのかもわからないまま、前に進めないという恐ろしい泥沼の状況になってしまいます。現実的な作戦判断をするためには、まず、どのような障壁がどこにどれだけ、どのように並んでいるのかを、知識や経験のあるアドバイザー(教員や研究員)の助けを借りてできるだけ具体的に把握しなければいけません。問題分析と呼ばれるものです。

ステップ③障壁の把握と作戦会議の方法

もし小さな障壁を1つずつ解消していくことを何段階も繰り返さなければいけない場合には、取り組み易いものの当面の成果は少ない作戦Aを実施することになるでしょう。もし大きな障壁を1つだけ解消できればよいという場合には、成果は大きいが成功の見込みも低い作戦Bを実施することになります。作戦AとBのどちらが現実的な作戦なのかは、研究室の資産やノウハウ、また成果を挙げるまでに許された時間などに依存します。小さな成果がでなくともじっくりと取り組める場合であったり、研究室のノウハウを利用して障壁の大きさを相対的に小さくできるのであれば、作戦Bも現実的な選択肢ですが、そうでない場合にはリスクが高すぎて選べません。

作戦として上手なのは、障壁の特徴を精確に把握して、最も核心的な場所を狙うことです。作戦Cのように、込み入った障壁を掻い潜って核となるところさえ突破できれば、小さな労力で大きな成果を挙げられます。このような作戦を可能にするには、問題の本質部分を見抜き、それに対して効果的なアイデアや手法を選択できる十分な技術知識や経験が必要です。そのためにはやはり、研究室のアドバイザー(教員や研究員)としっかり打ち合わせることが必要です。

参考までに、これまでに挙げてきたテーマの例では、「印象デザインに触感が利用されていなかった要因の核心は、ロボット表面の触り心地が、人がロボットに感じるどの性格印象にどのように結びつくかという因果構造が明らかになっていないことにある」という判断がありえます。そう判断した場合、それを明らかにするというのが研究目的だということになります。

まとめ

この記事では、「漠然とした興味はあるがテーマが決められない」場合にテーマを定めていく方法を紹介しました。テーマ決めで最終的に大切なのは、問題の本質部分を見抜き、それに合わせた作戦を立てることです。著者は、この「問題の本質」を「倒すべき魔王」と呼んでいます。下の記事で解説しています。

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